歴史に名を刻んだ人物たちの隠れた一面
歴史の教科書や伝記でその功績が語り継がれる偉人たち。しかし、彼らも一人の人間として、仕事の合間や休日には独自の趣味を楽しんでいた。今回は、そんな偉人たちの意外な素顔、とりわけ「知られざる趣味」に焦点を当て、彼らの人間味あふれる一面を探っていく。偉業を成し遂げた人々の意外な趣味を知ることは、彼らをより身近に感じるきっかけとなるだけでなく、私たち自身の創造性や発想力を刺激してくれるかもしれない。
歴史上の天才から現代の著名人まで、彼らの仕事からは想像もつかない驚きの趣味の世界へ、一緒に足を踏み入れてみよう。
科学者たちの思いがけない趣味
ニュートン|錬金術と神秘主義への傾倒
万有引力の法則を発見し、物理学の基礎を築いたアイザック・ニュートンは、実は科学者としての顔の裏で、錬金術と神秘主義に深く傾倒していた。彼の死後に発見された手記には、鉛を金に変える実験の詳細や、聖書の暗号を解読しようとする試みが記されていた。現代科学の父と称される人物が、当時すでに非科学的とされていた錬金術に情熱を注いでいたという事実は、多くの人にとって意外なものである。
ニュートンは生涯にわたり、錬金術の実験に没頭し、約100万語に及ぶ錬金術関連の文書を残している。これは彼の科学的著作をはるかに上回る量である。また、聖書の中に隠された暗号を解読することで、世界の終末の日付を予測しようとする研究も行っていた。合理的な物理法則を追求した科学者が、同時に神秘的な世界にも魅了されていたという二面性は、人間の複雑さを表している。
アインシュタイン|バイオリン演奏と帆船模型作り
相対性理論を打ち立て、現代物理学の礎を築いたアインシュタインは、バイオリン演奏と帆船模型づくりという二つの趣味に情熱を注いでいた。彼はモーツァルトやバッハを特に好み、思考が行き詰まった時にはバイオリンを手に取り、演奏することで新たなインスピレーションを得ていたという。
「バイオリンを弾いているときに、私は宇宙の仕組みについての素晴らしいアイデアを得ることがある」と語ったエピソードは有名である。また、アインシュタインは細かな帆船の模型を作ることにも熱中し、研究の合間に黙々と模型に向き合う姿がよく目撃されていた。複雑な理論物理学の研究と、繊細な手作業を要する趣味の両立は、彼の多面的な才能を物語っている。
マリー・キュリー|自転車旅行と園芸
放射性元素の研究でノーベル賞を二度受賞したマリー・キュリーは、実は熱心な自転車愛好家だった。彼女は夫のピエールとともに、フランス各地を自転車で探索することを最大の楽しみとしていた。結婚式の後も、二人は実験着のままで自転車旅行に出かけたというエピソードは、彼女の自転車への情熱が垣間見える。
また、キュリーは自宅の庭での園芸活動も大切にしており、放射性物質の研究で疲れた心身を、花や植物の世話をすることで癒していた。放射能の危険性が十分に理解されていなかった時代に生きたキュリーにとって、屋外での活動は貴重な息抜きであったと同時に、自然と向き合う時間だったのである。
政治家・指導者たちの意外な余暇の過ごし方
ウィンストン・チャーチル|絵画と煉瓦積み
第二次世界大戦中にイギリスを率いた首相ウィンストン・チャーチルは、政治活動の傍ら、情熱的な画家でもあった。50歳を過ぎてから本格的に絵画を始めたチャーチルは、生涯で500点以上の作品を残し、その一部は美術館で展示されるほどの評価を受けている。特に風景画を好み、地中海の光景や英国の田園風景を多く描いた。
さらに意外なことに、チャーチルは自らの手で煉瓦を積む作業にも没頭していた。彼は自宅の敷地内に、自ら設計した壁や小屋を煉瓦で築き上げることを楽しみ、ストレス解消法としていた。「一日中、政治的問題と格闘した後は、実際の煉瓦と格闘するのが最高の気晴らしだ」と語ったという。世界の命運を左右する重大な決断を下す政治家が、芸術的感性と職人的技術を併せ持っていたことは、彼の多面的な人間性を示している。
ベンジャミン・フランクリン|裸体水泳とグラスハーモニカ演奏
アメリカ建国の父の一人であり、科学者、発明家、外交官と多彩な才能を発揮したベンジャミン・フランクリンは、意外にも裸体水泳の愛好家だった。彼はロンドン滞在中、テムズ川で裸で泳ぐことを日課としており、水中での独自の水泳術について論文まで書いている。当時としては極めて珍しい趣味であり、彼の自由奔放な性格を表している。
また、フランクリンは「グラスハーモニカ」という珍しい楽器を発明し、演奏することを楽しんでいた。これはガラスの器に水を入れ、濡れた指で縁をこすることで音を出す楽器で、当時のヨーロッパで一時的に流行した。モーツァルトやベートーベンもこの楽器のための曲を作曲したほどである。政治や科学の分野で革新的な業績を残したフランクリンが、音楽の世界でも独創的な足跡を残したことは、彼の創造性の広がりを示している。
セオドア・ルーズベルト|柔道と動物研究
アメリカ第26代大統領テオドア・ルーズベルトは、大統領在任中にも柔道を熱心に学び、実は「茶帯」の資格を持っていた。日本から招いた講師に白宮内で指導を受け、政治の合間に真剣に柔道の稽古に励んでいたのである。当時のアメリカでは極めて珍しいこの趣味は、彼の「タフガイ」としてのイメージを強化する一方で、異文化への深い関心も示していた。
また、ルーズベルトは熱心な博物学者でもあり、鳥類を中心とした動物の研究に情熱を注いでいた。彼はアフリカやアマゾンへの探検を組織し、多くの新種の動物を発見。大統領退任後、スミソニアン博物館のために11,000点以上の標本を収集したことでも知られている。政治家としてだけでなく、自然科学者としても重要な貢献をしたルーズベルトの多才さは、彼の旺盛な好奇心と行動力の証である。
芸術家たちの意外な専門分野
レオナルド・ダ・ヴィンチ|解剖学研究と水力工学
美術史上最も偉大な画家の一人であるレオナルド・ダ・ヴィンチは、絵画以外にも多くの分野に情熱を注いでいた。特に解剖学への関心は強く、死体の解剖を通じて人体の構造や機能を詳細に研究。その正確さは当時の医学書をはるかに凌駕し、一部の発見は医学界で認識されるまで数百年を要したほどである。
また、ダ・ヴィンチは水力工学にも精通しており、運河や灌漑システムの設計を行い、水車や水力装置の革新的なデザインを考案した。「モナ・リザ」や「最後の晩餐」などの名画を生み出した芸術家が、同時に科学者、技術者としても卓越した才能を発揮していたことは、まさに「万能の天才」の名にふさわしい。
パブロ・ピカソ|詩作と闘牛
20世紀を代表する画家パブロ・ピカソは、実は真剣な詩人でもあった。特に1935年から1959年にかけて、数百編の詩を書き残している。その詩は絵画と同様に、実験的で型破りな表現が特徴で、シュルレアリスム運動にも影響を与えた。
また、スペイン出身のピカソは、生涯にわたって闘牛に情熱を持ち続けた。彼自身は闘牛士として闘技場に立つことはなかったが、闘牛の技術と精神性に深く魅了され、多くの闘牛をテーマにした作品を残している。絵画の革命児として知られるピカソが、同時に伝統的なスペイン文化の愛好者であったという二面性は興味深い。
文学者たちの変わった情熱
アーサー・コナン・ドイル|心霊研究と妖精写真の収集
シャーロック・ホームズの生みの親として知られるアーサー・コナン・ドイルは、理性と推理の権化ともいえる探偵を創造した一方で、自身は心霊現象や超常現象に強い関心を持っていた。特に第一次世界大戦後、息子を戦争で失った喪失感から、霊媒との交信や心霊研究に熱中するようになった。
さらに驚くべきことに、ドイルはいわゆる「コッティングリーの妖精」として知られる写真を本物と信じ、擁護する本まで出版した。この写真は後に少女たちによる作り物であることが判明したが、合理的な医師であり、論理的な探偵小説の作家であったドイルが、このような超自然現象を信じていたという矛盾は、人間の複雑な精神構造を表している。
フランツ・カフカ|水泳と裸体体操
実存主義文学の巨匠フランツ・カフカは、健康に強いこだわりを持ち、毎日の水泳と裸体体操に情熱を注いでいた。当時のヨーロッパで広まっていた「自然療法」の信奉者だったカフカは、自宅の庭や時には開いた窓際で、裸体のまま体操をすることを日課としていた。これは彼の健康への執着だけでなく、当時のボヘミアの前衛的な身体文化の影響も受けていた。
また、カフカは熱心な水泳家でもあり、プラハの川やプールでの水泳を楽しみ、自ら水泳法の研究も行っていた。暗く重苦しい作品で知られる作家が、実は身体の自由と解放を追求していたというギャップは興味深い。彼の日記には「水の中でしか本当の自分を感じられない」という記述が残されており、水泳が彼にとって単なる運動以上の意味を持っていたことがうかがえる。
アガサ・クリスティ|サーフィンと考古学発掘
ミステリー小説の女王アガサ・クリスティは、意外にも立ち乗りサーフィンの先駆者の一人だった。1920年代、まだサーフィンが世界的に普及する前に、南アフリカやハワイで波乗りを楽しんでいた。当時の上流階級の女性としては極めて珍しい趣味であり、彼女の冒険心と新しいことへの好奇心を表している。
また、クリスティは第二の夫である考古学者マックス・マロワンとの結婚後、中東の考古学発掘に熱中するようになった。彼女は夫の発掘調査に同行し、出土品の記録や写真撮影を担当。この経験は後に「死が去った後」や「メソポタミアの殺人」などの小説の背景として活かされることになる。殺人トリックを考案する作家が、古代文明の謎解きにも情熱を注いでいたという事実は、彼女の多彩な知的関心を示している。
現代の著名人と彼らの変わった趣味
スティーブン・キング|ロックバンドでのギター演奏
ホラー小説の巨匠スティーブン・キングは、実は音楽にも造詣が深く、作家仲間で結成した「ロック・ボトム・リメインダーズ」というアマチュア・バンドで、エレキギターを担当していた。メンバーには他にも有名作家のデイヴ・バリー、エイミー・タン、マット・グレイニングなどが参加し、チャリティーイベントなどで演奏を行っていた。
キングはAC/DCやメタリカなどのヘヴィメタルを愛好し、自身の小説の中にも音楽に関するレファレンスが多く登場する。恐怖を描くことに長けた作家が、激しい音楽を通じて別の形で感情を表現していたというギャップは興味深い。
イーロン・マスク|ビデオゲーム開発とSF小説愛読
テスラやスペースXのCEOとして知られるイーロン・マスクは、多忙なビジネスの合間を縫って、ビデオゲームの開発に情熱を注いでいる。実は彼のキャリアは12歳の時に自作のゲーム「Blastar」を販売したことから始まっており、現在でも時間があればコーディングを楽しんでいるという。
また、マスクはSF小説の愛読も密かな趣味としており、現実世界で革新的な技術を生み出す実業家が、同時にフィクションの世界へ傾倒している点は、彼の多面的な人間性を示している。
ライス・前米国務長官|ピアノ演奏
コンドリーザ・ライス元米国務長官は、外交官としてのハードな仕事の傍ら、意外な一面を持っている。
クラシックピアノの演奏者としても高い技術を持ち、モーツァルトやブラームスの曲を得意としている。彼女は幼少期からピアノを学び、一時はプロのピアニストを目指していたほどだった。国際政治の最前線で活躍した女性が、芸術的な音楽演奏という全く異なる分野で才能を発揮していることは、彼女の多面的な人間性を物語っている。
変わった趣味から見える偉人たちの本質
趣味に表れる創造性と発想力
偉人たちの変わった趣味を紐解くと、彼らの多くに共通するのは、主な活動分野とは全く異なる領域にも好奇心と情熱を持っていたという点である。科学者が芸術に親しみ、芸術家が科学を探究するというクロスオーバーは、彼らの創造性と発想力の源泉となっていたと考えられる。
例えば、アインシュタインのバイオリン演奏は単なる気晴らしではなく、物理学の思考にも影響を与えていた。彼自身が「音楽と科学的発見のプロセスは同じ」と語っているように、異なる分野での活動が相互に刺激を与え合い、新たな発想を生み出す土壌となっていたのである。
ストレス解消と精神的バランスの維持
歴史を変えるような偉業を成し遂げた人々は、大きなプレッシャーやストレスと向き合う必要があった。彼らの変わった趣味の多くは、そうした精神的負担からの解放やバランスの維持に役立っていたと考えられる。
チャーチルの絵画や煉瓦積みは、世界大戦という未曾有の危機に対応する彼の精神的な支えとなっていた。同様に、現代のビジネスリーダーや政治家たちも、高いプレッシャーの中で精神的な健全さを保つために、独自の趣味を大切にしている例が多い。
人間としての多面性と深み
偉人たちの知られざる「趣味」は、才能や関心だけでなく、複雑で多面的な人間であったことを教えてくれる。カフカの裸体体操やクリスティのサーフィンなど、一見するとその人物の公的イメージとはかけ離れた趣味が、実は彼らの人間としての深みや豊かさを形作っていたのである。
歴史の教科書に記録される偉業の裏には、常に血の通った一人の人間がいる。彼らの変わった趣味を知ることは、偉人たちをより立体的に、より人間味豊かに理解する手がかりとなるのだ。
まとめ|趣味の意味
偉人たちの変わった趣味を探ることは、好奇心を満たすだけのものではなく、私たち自身の趣味や余暇活動の意味を問い直すきっかけにもなる。
仕事や専門分野とは全く異なる趣味を持つことは、思考の柔軟性を保ち、創造性を育む土壌となる。また、情熱を注げる趣味は、日々のストレスから心を解放し、人生に豊かさをもたらす。
偉人たちが大きな業績を残しながらも、同時に独自の趣味に情熱を注いでいたという事実は、仕事と趣味のバランスの重要性を教えてくれる。彼らの変わった趣味の世界を覗くことで、私たち自身も自分の隠れた才能や関心を探求する勇気を得られるかもしれない。日常の中に小さな情熱を見つけ、それを育てることが、より豊かで創造的な人生につながるという教訓を、偉人たちの趣味は私たちに伝えているのである。