
採用活動に多大なコストと時間をかけたにもかかわらず、入社してわずか数ヶ月で退職してしまう社員。経営者や管理職にとって、これほど頭を悩ませる問題はないだろう。人材不足が叫ばれる現代において、早期離職は企業の成長を阻害する大きな要因となっている。
実は、すぐに辞めてしまう社員には一定の特徴や傾向が存在する。これらを事前に把握し、採用段階で見極めることができれば、ミスマッチを大幅に減らすことが可能だ。本コラムでは、長年の採用現場で蓄積されたデータと実例をもとに、早期離職しやすい社員の特徴を10項目にわたって詳しく解説していく。
1. 転職回数が異常に多く、在籍期間が短い
履歴書を見たときに最初に目につくのが、転職回数の多さである。20代後半で既に5回以上の転職歴がある、各社での在籍期間が1年未満ばかりといった経歴は、明らかに警戒すべきシグナルだ。
もちろん、転職回数が多いこと自体が必ずしも悪いわけではない。キャリアアップのための計画的な転職もあれば、業界特性によって短期プロジェクトを渡り歩くケースもある。問題なのは、その転職理由に一貫性がなく、前向きな動機が見えない場合である。
「人間関係が合わなかった」「思っていた仕事と違った」「上司と合わなかった」といった理由ばかりを並べる応募者は要注意だ。これらの理由には共通点がある。それは、環境や他者に原因を求め、自分自身を振り返る視点が欠けているということである。
採用面接では、単に転職回数を確認するだけでなく、各社での具体的な業務内容、退職理由、そこから学んだことを丁寧にヒアリングすることが重要だ。本当にキャリアビジョンを持って転職を重ねている人材は、それぞれの経験が次のステップにどう繋がったのかを明確に説明できる。一方、場当たり的に職を転々としている人材は、説明が曖昧で一貫性に欠けるものだ。
2. 面接時の質問が待遇面ばかりに集中している
面接で応募者がどんな質問をするかは、その人の価値観や仕事への姿勢を測る重要な指標となる。給与や休日、福利厚生について質問すること自体は当然の権利であり、むしろ生活設計を考えている証拠でもある。
しかし、面接のほぼすべての時間を使って待遇面ばかりを確認し、仕事の内容やキャリアパス、会社のビジョンについてまったく関心を示さない応募者は危険信号だ。このタイプの人材は、仕事そのものよりも条件面だけで就職先を選んでいる可能性が高い。
つまり、少しでも条件の良い企業が現れれば、簡単に転職を考えてしまう。仕事への情熱や成長意欲が感じられない応募者は、入社後もモチベーションを維持することが難しく、ちょっとした不満があるとすぐに退職を選択してしまう傾向がある。
理想的な応募者は、待遇についても確認しつつ、「この仕事でどんなスキルが身につくか」「将来的にどんなキャリアを描けるか」「会社がどんな方向性を目指しているか」といった本質的な質問を投げかけてくる。こうした姿勢こそが、長期的なコミットメントの証なのである。
3. 自己評価が異常に高く、謙虚さに欠ける
面接で自信を持って自分の強みをアピールすることは重要だ。しかし、その自信が根拠のない過剰な自己評価になっていると、早期離職のリスクが高まる。
「私なら御社の売上を倍にできます」「前職では誰よりも成果を出していました」といった発言を連発する応募者には注意が必要だ。特に、具体的な実績データや根拠を示さず、主観的な自己評価だけを語る人材は、現実とのギャップに苦しむことになる。
入社後、理想と現実の差に直面したとき、このタイプは「自分の能力を活かせない環境だ」と考え、会社や上司のせいにして退職を選択する。自己評価が高すぎる人材は、フィードバックを素直に受け入れることができず、成長機会を逃してしまうのだ。
採用面接では、応募者の謙虚さや学ぶ姿勢を見極めることが大切である。「まだ勉強中ですが」「先輩方から学びたいと思っています」といった言葉が自然に出てくる人材は、組織に馴染みやすく、長期的に成長する可能性が高い。過去の失敗談を率直に語り、そこから何を学んだかを説明できる応募者は、むしろ高く評価すべきだろう。
4. キャリアビジョンが漠然としており、目標設定が曖昧
「5年後、10年後にどうなっていたいですか」という質問は、面接の定番である。この質問に対する回答が曖昧で具体性に欠ける応募者は、早期離職のリスクを抱えている。
「とりあえず経験を積みたい」「いろいろな仕事をやってみたい」といった抽象的な回答しか出てこない人材は、実は何も考えていない可能性が高い。目標が明確でないということは、仕事へのコミットメントも弱いということだ。
目標がないまま入社すると、日々の業務に意味を見出せず、モチベーションが低下していく。少し大変な仕事にぶつかったり、思い通りにいかないことがあると、「この仕事は自分に合わないのではないか」と疑問を持ち始め、転職サイトを眺めるようになってしまう。
一方、明確なキャリアビジョンを持っている人材は、現在の仕事がそのビジョンにどう繋がるかを理解しているため、困難な状況でも乗り越える力がある。採用側は、応募者が自社でどんな成長を遂げたいのか、そのために何をしようと考えているのかを深掘りする必要がある。具体的な行動計画まで語れる人材こそが、長期的に活躍してくれる宝なのだ。
5. 前職や前々職への批判的な発言が目立つ
面接で退職理由を聞いたとき、前職の会社や上司、同僚を批判する発言ばかりが出てくる応募者は、ほぼ間違いなく要注意人物である。
「上司が無能だった」「会社の方針が間違っていた」「同僚が足を引っ張った」といったネガティブな発言は、一見すると正直に見えるかもしれない。しかし、こうした発言の裏には、問題を他責にする思考パターンが潜んでいる。
どんな職場にも問題はある。しかし、それをすべて環境のせいにして、自分が何を学び、どう対処しようとしたのかを語れない人材は、あなたの会社に入社しても同じパターンを繰り返すだろう。入社後、何か問題が起きれば、また会社や上司、同僚のせいにして退職を選択する。
優秀な人材は、たとえ前職に不満があったとしても、それを建設的な形で表現する。「前職では〇〇という点に課題を感じたので、もっと××な環境で働きたいと思いました」といった前向きな言い換えができるのだ。
面接官は、応募者が過去の経験をどう語るかに注目すべきである。困難な状況をどう乗り越えようとしたのか、そこから何を学んだのかを具体的に説明できる人材は、逆境に強く、長期的に貢献してくれる可能性が高い。

6. リサーチ不足が明らかで、企業への関心が薄い
面接の冒頭で「当社について知っていることを教えてください」と尋ねたとき、ホームページに書いてある基本情報すら把握していない応募者がいる。これは致命的な準備不足であり、企業への関心の低さを露呈している。
すぐ辞める社員の多くは、そもそも入社時点で会社への興味や愛着が薄い。数ある求人の中から「何となく」「条件が良さそうだから」という理由で応募しているだけで、本気でその会社で働きたいという熱意がない。
企業研究をしっかり行っている応募者は、会社の事業内容、理念、最近のニュース、業界での立ち位置などを把握した上で面接に臨んでくる。さらに、「御社の〇〇という取り組みに共感しました」「××のプロジェクトに携わりたいです」といった具体的な志望動機を語ることができる。
こうした準備の差は、入社後のエンゲージメントに直結する。企業のことをよく理解し、共感して入社した社員は、困難な状況でも「この会社で頑張りたい」という気持ちを持ち続けられる。一方、表面的な理解しかないまま入社した社員は、少しのつまずきで「思っていたのと違う」と感じて離れていってしまうのだ。
7. コミュニケーション能力に問題があり、協調性に欠ける
面接での受け答えが一方的だったり、質問の意図を理解できずに的外れな回答をしたりする応募者は、コミュニケーション能力に課題を抱えている可能性がある。
現代の職場では、ほとんどの業務がチームワークで成り立っている。どんなに個人のスキルが高くても、周囲と円滑にコミュニケーションを取れなければ、組織の中で活躍することは難しい。
コミュニケーション能力に問題がある人材は、上司からの指示を正確に理解できなかったり、同僚との連携がうまくいかなかったりする。その結果、仕事で失敗したり、孤立したりして、居心地の悪さを感じるようになる。最終的には「この職場は自分に合わない」と判断して退職してしまうのだ。
面接では、応募者の話し方、聞く姿勢、質問への反応速度などを注意深く観察することが重要だ。また、「チームで何かを成し遂げた経験」について尋ね、その中でどんな役割を果たしたのか、どうやって意見の相違を解決したのかを聞くことで、協調性を測ることができる。
一人で黙々と作業するのが好きで、チームワークが苦手という人材もいる。そうした人材を否定する必要はないが、採用するポジションとのマッチングを慎重に検討する必要がある。
8. 柔軟性がなく、変化への適応力が低い
「前の会社ではこうやっていました」「この方法しか知りません」といった発言が多い応募者は、柔軟性に欠けるタイプである。
ビジネス環境は常に変化している。新しいツールの導入、業務プロセスの改善、組織体制の変更など、企業は進化し続けなければ生き残れない。こうした変化に柔軟に対応できない人材は、現代の職場では苦労することになる。
変化への適応力が低い人材は、新しいやり方を学ぶことに抵抗感を持ち、「前のやり方の方が良かった」と不満を募らせる。自分のスタイルを変えることができず、組織の方針に従えないため、次第に疎外感を覚えるようになる。そして、「この会社のやり方についていけない」と感じて退職を選択してしまうのだ。
採用面接では、「これまでの仕事で大きな変化を経験したことはありますか。それにどう対応しましたか」といった質問が有効だ。変化を前向きに捉え、新しい状況に適応するために工夫した経験を語れる人材は、柔軟性が高く、長期的に活躍できる可能性がある。
また、「わからないことがあったとき、どうやって学びますか」という質問も重要だ。自ら進んで学ぶ姿勢があり、新しいスキルを身につけることに前向きな人材は、変化の激しい環境でも成長し続けることができる。
9. ストレス耐性が低く、困難から逃げる傾向がある
仕事には必ず困難がつきものだ。納期のプレッシャー、難しいクライアント対応、複雑な問題解決など、ストレスを感じる場面は避けられない。こうした状況にどう向き合うかが、社員の定着率に大きく影響する。
面接で「これまでで最も大変だった仕事は何ですか」と尋ねたとき、具体的なエピソードを語れない応募者や、困難な状況から逃げた経験ばかりを話す応募者は要注意だ。
ストレス耐性が低い人材は、ちょっとした困難に直面しただけで「もう無理だ」と感じてしまう。問題を解決しようと努力するよりも、その場から離れることを優先する。そのため、仕事が少し忙しくなったり、難しいプロジェクトが始まったりすると、すぐに退職を考え始めてしまうのだ。
優秀な人材は、困難な状況をどう乗り越えたかを具体的に説明できる。「最初は大変でしたが、〇〇という工夫をして、××という結果を出すことができました」といった成功体験を持っている。失敗した経験であっても、そこから何を学び、次にどう活かしたかを語れる人材は、成長力がある。
採用側は、応募者のストレス対処法を確認することが重要だ。「ストレスを感じたとき、どうやって対処していますか」という質問に対して、健全な対処法を持っている人材は、長期的に働き続けられる可能性が高い。
10. 入社前から不満や要求が多く、条件交渉にこだわる
内定を出した後、入社前の段階で細かい条件交渉を繰り返したり、さまざまな要求を出してきたりする人材は、入社後も不満を言い続ける可能性が高い。
「もう少し給与を上げてほしい」「リモートワークの頻度を増やしてほしい」「配属先を変えてほしい」といった交渉自体は悪いことではない。しかし、度を超えた要求や、譲歩してもさらに次の要求を出してくるような態度は、問題のある兆候だ。
このタイプの人材は、常に「もっと良い条件があるはずだ」と考えており、現状に満足することがない。入社後も、他の社員と比較して不公平感を持ったり、些細なことに不満を持ったりする。そして、少しでも条件の良い求人を見つけると、簡単に転職を決断してしまうのだ。
理想的な応募者は、提示された条件を前向きに受け入れ、「この環境でどう成果を出すか」を考える。必要な交渉は行うが、それは建設的で合理的なものであり、感謝の気持ちも忘れない。
採用側は、内定後の対応にも注意を払うべきである。入社前から不満が多い人材は、入社後もトラブルメーカーになる可能性が高い。場合によっては、内定を出した後でも、慎重に判断し直すことも必要かもしれない。
採用で見極めるための実践的アプローチ
ここまで、すぐ辞める社員の10の特徴を見てきた。では、これらの特徴を採用段階でどう見極めればよいのだろうか。
構造化面接を取り入れる
すべての応募者に同じ質問をすることで、公平な比較ができ、一貫した基準で評価できる。特に、過去の行動に基づく質問(行動面接)が有効である。「〇〇という状況で、あなたはどう行動しましたか」という質問は、応募者の実際の思考パターンや行動特性を明らかにしてくれる。
複数回の面接を実施する
一度の面接では見えない側面も、二度、三度と会うことで見えてくる。また、異なる立場の社員が面接に参加することで、多角的な視点から応募者を評価できる。
リファレンスチェック(前職への照会)
これはもし可能であれば実施すべきだ。前職での勤務態度や実績、退職理由などを確認することで、応募者の自己申告とのズレを発見できることがある。
試用期間を有効活用すること
多くの企業が試用期間を設けているが、実際には形骸化していることが多い。試用期間中は、社員の働きぶりや適応力をしっかりと観察し、本採用の可否を慎重に判断すべきである。
まとめ
すぐ辞める社員には、確かに共通する特徴や傾向が存在する。しかし、これらの特徴を持つ人材をすべて排除すればよいというわけではない。大切なのは、自社の文化や求める人材像と照らし合わせ、マッチングを慎重に判断することだ。
同時に、経営者や管理職は、社員が辞める原因が本当に社員側だけにあるのかを自問する必要がある。職場環境、マネジメント、評価制度、キャリアパスなど、企業側に改善すべき点はないだろうか。
早期離職を防ぐためには、採用段階での見極めと、入社後の丁寧なフォローの両方が不可欠である。新入社員が組織に馴染み、能力を発揮できるよう支援する体制を整えることが、長期的な人材定着に繋がるのだ。
人材は企業の最大の資産である。その資産を守り、育てるためにも、本コラムで紹介した視点を採用活動に活かしていただければ幸いである。





















































































