
新社会人へ。
入社式を終え、新しい名刺を手に取った瞬間、あなたは何を感じただろうか。企業名を見て誇らしく思っただろうか。「ついに一流企業の一員になれた」「この会社なら周りに自慢できる」そんな思いが浮かんだ人も多いはずだ。
しかし、その喜びの背後には危険な罠が潜んでいる。それが今回のテーマである「市場価値」という幻想だ。
「市場価値」という名の隠れた呪い
近年、SNSやビジネス書で頻繁に目にする「市場価値」という言葉。「自分の市場価値を高めよう」「年収〇〇万円の市場価値を持つ人材になれ」といったフレーズが溢れている。一見すると前向きに聞こえるこの言葉だが、実はこれこそが現代社会における新たな呪いとなっているのだ。
なぜなら、この考え方は「あなたの価値=あなたの年収や勤め先」という危険な等式を無意識のうちに植え付けるからだ。大企業に勤めていれば価値が高く、年収が低ければ価値が低い——そんな単純な物差しで人の価値を測ろうとする風潮が広がっている。
この考え方に囚われると、自分の内面や人間性ではなく、外部から与えられた肩書きや数字にアイデンティティを依存するようになる。そして、その「市場価値」が下がる恐怖から逃れられなくなるのだ。
ピケティの法則から見る「価値」の幻想
フランスの経済学者トマ・ピケティは著書『21世紀の資本』で、資本主義社会における富の集中と格差の拡大について警鐘を鳴らした。彼の研究によれば、現代社会では「r > g」という法則が働いている。つまり、資本収益率(r)が経済成長率(g)を上回る状況が続くと、富の格差は自然に拡大していくというものだ。
この法則から私たちが学ぶべきことは何か。それは、単純に「市場」の論理に従って自分の価値を定義すれば、大多数の人は常に「負け組」になるよう設計されているということだ。これは資本主義システムの構造的な問題であり、個人の能力や努力だけでは解決できない。
新社会人の皆に伝えたいのは、このような不平等が組み込まれたシステムの中で、「市場価値」という外部基準に自己価値を委ねることの危険性だ。年収や会社名という外側の価値観に縛られれば縛られるほど、本当の自分を見失い、不安と競争の連鎖から抜け出せなくなる。
本当の「自己価値」を見つける道

では、「市場価値」という幻想から解放されるには、どうすれば良いのだろうか。
まず理解すべきは、あなたの価値はあなた自身が決めるものだということだ。それは外部から与えられるものではなく、あなた自身の内側から生まれ、日々の選択と行動によって築き上げていくものである。
例えば、ある小さな町工場で働く職人を考えてみよう。彼の年収は決して高くないかもしれない。しかし、彼が作る製品は確かな技術と情熱が込められており、それを使う人々に喜びを与えている。彼の価値は市場が決めた年収ではなく、彼の技術と、それが世界にもたらす小さな変化の中にある。
また、介護施設で働く人々も、市場価値という観点では評価されにくい仕事だ。しかし、彼らが提供するケアは、支援を必要とする人々の生活を根本から支えている。その仕事の社会的価値は、給与明細に記された数字をはるかに超えるものだ。
つまり、本当の自己価値とは、あなたが世界とどう関わり、どのような影響を与えているかによって形作られるものなのだ。それは単なる数字や肩書きではなく、あなたの存在そのものが持つ意味である。
新しい価値観を築く具体的なステップ
「わかった、市場価値に囚われるのは良くない。でも具体的にどうすれば?」
そう思う人も多いだろう。では、「市場価値」の呪いから解放され、真の自己価値を育むための具体的なステップを紹介する。
①自分自身の内なる声に耳を傾けることから始めよう。「周りからどう見られているか」ではなく、「自分は何に喜びを感じるか」「どんな時に充実感を得るか」を深く考えてみる。これは簡単なようで、実は非常に難しい。なぜなら私たちは常に外部からの期待や評価に意識を向けるよう教育されてきたからだ。
例えば、一日の終わりに「今日、自分が本当に満足したことは何だったか」と問いかけてみる習慣をつけてみること。それが仕事の成果なのか、誰かとの会話なのか、あるいは趣味の時間だったのかを観察する。その積み重ねが、あなた自身の価値観を明確にしていく。
②多様な価値基準に触れることが重要だ。同じ業界、同じ価値観の人々とばかり付き合っていると、その狭い世界の「市場価値」に囚われてしまう。異なる分野で活躍する人々との交流や、様々な文化や思想に触れることで、価値観の多様性を実感できる。
③長期的な視点を持つことだ。市場価値は短期的な評価に過ぎない。しかし人生は長い。今の市場で評価されなくても、10年後、20年後に花開く才能や価値観もある。ピケティが指摘したように、短期的な市場原理に従うだけでは、多くの人が報われない社会構造になっている。だからこそ、短期的な評価に一喜一憂せず、自分自身の長期的な成長と貢献に目を向けることが大切なのだ。
④「与える」という視点を持つことだ。市場価値の考え方は常に「自分が何を得られるか」に焦点を当てる。しかし、本当の充実感は往々にして「自分が何を与えられるか」から生まれる。自分の技術や知識、時間や配慮が誰かの役に立ったとき、市場では測れない価値を実感できるはずだ。
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