訪問看護とは、看護師が自宅で療養する方の自宅を訪れ、医療的なケアや生活支援を行うサービスです。病院での勤務とは異なり、患者と一対一で向き合う訪問看護師には、深く寄り添うきめ細やかな姿勢が求められます。
川瀬まなみさんは20年間の病棟勤務を経て、この春から、ご主人が代表を務める訪問看護ステーション『リバシィ』で、訪問看護師として新たな一歩を踏み出します。本記事では、未知のフィールドへ挑戦する彼女の心境に迫ります。
川瀬 まなみさん
■プロフィール
岩手県出身の看護師。約20年の病院勤務を経て、神経内科や呼吸器内科、重度心身障害児のケアに従事。
2025年4月より北海道帯広市の訪問看護ステーション『リバシィ』で、訪問看護師としてキャリアをスタート。患者とその家族に寄り添いながら、心と心をつなぐ温かい看護の提供を目指す。

病棟勤務で積み重ねた20年間の看護経験
ーこれまでの看護師としての歩みを教えてください。
故郷の岩手県で介護施設に就職したあと、働きながら夜間の看護学校に通って正看護師の資格を取得し、県内の国立病院に転職しました。結婚を機に北海道帯広市の系列病院へ転勤して、今にいたります。
ー病院では、どのような分野を担当されていたんですか?
神経内科や呼吸器内科、一般内科などいろいろ担当しましたが、特に重度心身障害児のケアを担当した期間が長かったですね。
重度心身障害の患者さんは会話が難しい場合が多く、表情や体の微妙な動きなど、わずかなサインを見逃さないようにする配慮が求められました。その経験が、今後の訪問看護にも活かせるのではないかと思っています。
看護師としての葛藤と成長―父の看取りを通じて
ーこれまでのご経験の中で、一番大変だったことは何でしょうか?
4年ほど前に、実の父を在宅で看取ったことですね。父は脳梗塞で半身麻痺となり、その後膵臓がんが見つかりました。コロナ禍で面会も制限されるなか、「自宅で過ごしたい」という父の願いを叶えるため、在宅看護を選んだんです。
ー在宅での看取りは、ご家族にとって心身ともに影響が大きかったのでは?
そうですね。実際に在宅で父のケアをするなかで、家族との間に確執が生まれてしまいました。
娘として父に寄り添いたいと思う一方で、看護師の視点で「やってあげたいこと」が次々と浮かんできてしまうんです。父の表情や動きからサインを受け取って、家族に気づかれないようにこっそりと手を貸していたつもりだったのですが……。
それが、長年そばで介護をしてきた姉や母に「今までの努力を否定された」と感じさせてしまったんですよね。「看護師だから偉そうにしている」と、思われてしまうこともありました。
ー看護師の経験が裏目に出てしまったんですね。
そうなんです。「看護師ってなんなんだろう」と自問する日々を過ごしました。それでも、在宅医療の手厚いサポートを受けながら、最終的には家族みんなが「良い看取りができた」と思えたのが印象的でしたね。
ーその経験から、学びはありましたか?
はい、訪問看護師さんの働く姿を見ながら、看護師として理想とする在り方を見つけられた気がしましたね。
訪問看護では患者さんだけでなく、家族の思いにも寄り添う姿勢が大切だと学びました。患者さん本人やご家族が必ずしも同じ方向を向いているとは限らず、価値観が違うことも多いと思います。だからこそ看護師は誰かの立場にかたよるのではなく、間に立って調整する役割を求められます。
この経験を通じて、患者さんとご家族の両方に寄り添えるような訪問看護の仕事がしたいと思うようになりました。
訪問看護の魅力とは?―心と心をつなぐケアの実現

ー訪問看護の魅力とはどのようなところにあるのでしょうか?
病院では業務に追われ、患者さんとじっくり向き合う時間が取れないことが多くありました。その点、訪問看護では、一対一でその人の生活に寄り添い、深いケアができます。また、周囲にいるご家族の精神的なサポートができる点も大きな魅力です。まさに心と心のつながれる仕事だと思いますね。
ー具体的にはどのような活動をしていきたいと考えていますか?
重度心身障害児のケアにも力を入れたいと考えています。最近では、障害を持って生まれた赤ちゃんが在宅で過ごすケースが増えていますが、サポート体制はまだ十分とはいえません。
市内の病院にも重度心身障害児のケアを行う小児科はありますが、在宅に戻った後の支援が手薄になっていると聞きます。そこで、私ともう一人、専門性を持つ看護師がチームを組み、訪問看護を通じて支援を充実させていきたいと考えています。
ーそれはご家族にとっても大きな支えになりますね。
そうですね。特に、重度心身障害児のお母さんたちは24時間体制でケアを続けており、心身ともに負担が大きい状況です。私たちが訪問することで、少しでもその負担を軽減できればと考えています。
訪問看護ステーション『リバシィ』の強み―幅広い支援と心を込めたケア
ー訪問看護ステーション『リバシィ』には、どのような強みがあるのでしょうか?
心を込めた対応のできる、経験豊富な看護師がそろっている点ですね。利用者さんに安心を感じてもらえるようなケアができる環境を整えています。
ー訪問看護の対象となる利用者さんは、どのような方ですか?
終末期の利用者さんや、大腸がんの手術後に人工肛門(ストーマ)を造設した方へのパウチ交換なども行っています。また、特に精神科の訪問看護には専門性を持っていますね。
精神科の利用者さんは不安を感じやすく、頻繁に電話をかけてこられるため、24時間体制で対応しています。その甲斐あって、利用者さんが病院を受診する回数が減っているようで、医師からも「訪問看護のおかげで助かっている」と伝えていただけることもあります。
ーお医者さんから!?病院との連携もしっかりされているのですね。
はい。以前勤めていた病院との信頼関係が続いており、医師から直接患者さんを紹介されることもあります。
ー地域のコミュニティと十分に連携できている点も『リバシィ』の大きな強みなのでしょうか?
そうですね。『リバシィ』では、医師やケアマネージャーと連携しながら、利用者さんや周囲にいるご家族までを、細やかにサポートしています。
訪問看護に向いている人とは?—穏やかでありつつも流されない人

ー訪問看護で働くのに向いている人は、どのような方だと思いますか?
穏やかな人柄の方に向いていると思いますね。利用者さんに安心感を持ってもらうためにも、優しさのある対応が求められます。ただ、相手に流されないようにバランスを取らなければなりません。
ー具体的にはどのような場面で、そのバランスが求められるのでしょう?
「支援すべきこと」の見極めには、バランス感覚が要求されると思います。
病気になると誰でも気持ちが弱くなるものです。すると、本当はできることであっても「やってほしい」と、サポートを求めてしまうことがあります。でも、何でも手助けしてしまうと、本当に必要なケアが行えなくなってしまいますし、利用者さんの自立を妨げてしまうこともあるんです。
ーなるほど。利用者さんの自立を促すことも訪問看護の役割なのですね。
そうですね。適切な距離感を保ちながら、利用者さんが自分でできることを増やしていくような支援が求められます。訪問看護では一対一でこうした細やかなケアができるため、判断力や対応力も自然と身についていくのだと思います。
ー病院勤務とはまた違った魅力がありそうですね。
はい、訪問看護は業務の縛りが少ないので、自分の判断で柔軟に対応できるのが特徴です。利用者さん一人ひとりと向き合いながら、自分のスキルを活かしたい方には、ぴったりの仕事だと思います。
訪問看護の未来―支援の輪を広げるために

ー今後の訪問看護の展望についてお聞かせください。
まずは訪問看護の現場に慣れながら、利用者さんとの信頼関係を築いていきたいです。仕事に慣れてきたらこれまでの経験を活かし、重度心身障害児の訪問ケアにも力を入れたいですね。
主人は精神科の利用者さんのケア、私は重度心身障害を抱えるお子さんのケアにそれぞれ専門性を持っています。チームで協力することで、より幅広く、質の高い訪問看護を提供できるようになっていくと思います。
ー川瀬さんが『リバシィ』に加わることで、さらに支援の輪が拡大していきそうですね。
はい。訪問エリアの拡大を見据えていて、新たなサテライト事業所の設立を検討中です。現状では対応が難しい遠方の地域にいる方々にも、私たちのケアを届けたいと考えています。
ー本日はありがとうございました。
今回のインタビューを通して、川瀬さんの訪問看護に対する想いの強さが伝わってきました。病院勤務とは異なり、一人ひとりに寄り添う訪問看護の魅力。今後、川瀬さんがどのように『リバシィ』での活動を通じて、支援の輪を広げていくのか期待が膨らみます。
ライター紹介
近藤大輔
「にっぽん全国”シゴトのある風景”」北海道エリア担当ライター
スーパーやドラッグストアなど小売業に15年従事した後、2021年よりフリーランスのライターとして活動中。プログラミングスクールをはじめとして、さまざまな業種・分野の企業でオウンドメディアの執筆・編集に携わる。2児の父。熱狂的な音楽フリーク。ロックをこよなく愛する。