
近年、SNSやビジネス界隈で頻繁に耳にする「人間力」という言葉。SNSやビジネス書では、「人間力を上げれば売上が伸びる」「人間力が高ければ成功する」といった主張が日常的に飛び交っている。確かに、ビジネスの世界で成功を収めている人々の多くは、優れた人間性を持ち合わせているように見える。しかし、この「人間力=ビジネスの成功」という単純な図式は、本質を見誤らせる危険性をはらんでいるのではないだろうか。
誤解される「人間力」の本質
多くの人が「人間力」を、ビジネスで成功するためのスキルセットの一つとして捉えている。しかし、これは根本的な誤解である。人間力とは、営業力や経営手腕といったビジネススキルとは全く異なる次元で育まれる資質だ。それは、人生における自分しか経験し得ない感情や思考の積み重ねだったり、社会との向き合い方、そして長い年月をかけた自分自身が体験するケーススタディの中で、自然と醸成されていくものなのであり、その人間力の質は、人によって異なるのではないかと考えている。
例えば、ある成功した経営者が「人間力が大切だ」と説くとき、その言葉の裏には、彼らが歩んできた人生における様々な経験や、困難を乗り越えてきた過程で得た深い洞察が込められている。しかし、その言葉だけを切り取って「人間力を上げれば成功できる」という短絡的な結論に飛びつくのは危険である。要するに、本当の「人間力」というものは、見聞きするだけの単純なマインドセットでは醸成されないのである。
本当の人間力は何をもたらすのか
真の人間力をビジネスと結びつけるとするならば、必要なのはまず、他者への深い理解と共感力である。単なるコミュニケーションスキルではなく、相手の立場に立って物事を考え、その人の喜びや苦しみを自分のことのように感じ取れる感性のことを指す。例えば、部下が仕事で躓いているとき、単に叱咤激励するのではなく、なぜそこで困っているのか、部下は今どういう心境なのかを理解し、部下への的確なサポートができる力である。
次に、強い倫理観と価値観である。利益だけを追求するのではなく、社会にとって何が正しいのか、心の奥底から常に考え、行動する姿勢が求められる。具体的には、短期的な利益追求よりも、持続可能なビジネスモデルの構築や、従業員の幸せを第一に考えた経営判断ができる力である。
そして、自分自身との対話力である。日々の経験から学び、自己を見つめ直す習慣を持ち、常に成長を続けていく姿勢が重要だ。これは、毎日の業務の中で「なぜこの判断をしたのか」「もっと良い方法はなかったか」と振り返る習慣を持つことから始まる。
なぜ人間力は直接的な目標にすべきでないのか
人間力の向上をビジネスの成功のための直接的な手段として捉えることには、筆者的には疑問であり、本末転倒なのではないかと考える。
人間力の向上を意図的に目指そうとすると、往々にして表面的な振る舞いの模倣に終始してしまう。例えば、「成功者は人当たりが良いから、自分も愛想よく振る舞おう」といった発想である。しかし、これでは真の人間力の向上にはつながらない。
真の人間力は、歩み続ける人生、その中での日常の経験や思考の中で、他者との関わりを通じて自然と培われていくものである。それは、困難な状況で正しい判断をしようと悩み抜いた経験や、失敗から学んだ教訓、他者の成長を心から喜べた瞬間など、様々な経験の積み重ねによって形成されるものなのである。

ビジネスの成功は副産物である
ここで重要なのは、ビジネスでの成功は、こうして培われた人間力がもたらす「副産物」に過ぎないという認識である。
例えば、ある経営者が困難な経営判断を迫られたとき、純粋に「何が正しいのか」を考え抜いた結果として下した決断が、結果的に会社の成長につながるということがある。これは、その経営者が意図的に会社の成長を目指したわけではなく、あくまでも正しい判断を追求した結果として得られた副産物なのである。
また、部下の成長を心から願い、適切なサポートを続けた結果として、チームの生産性が向上するということもある。これも、生産性の向上を直接的な目的としたわけではなく、真摯な人間関係の構築が土台にあった上でもたらされた副産物と言える。
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