どうなるの?「俺たちの年金」問題

どうなるの?「俺たちの年金」問題 

日本の年金制度は、高度経済成長期に確立された社会保障の要として、長年にわたり国民の老後の生活を支えてきた。しかし、少子高齢化の急速な進行や経済の低成長、そして複雑化する社会構造の中で、この制度は大きな岐路に立たされている。「将来、本当に年金を受け取れるのだろうか」。この問いは、今や多くの日本国民の心に重くのしかかっているのはご承知の通り。タイトルもはっきりと今を生きる自分を含めた現役世代からの叫び「どうなるの俺たちの年金」とさせていただいた。

今回は日本の年金問題の現状について少々多角的に分析し、その将来について考察する。制度の基本的な仕組みから最新のデータ、専門家の見解まで幅広く取り上げ、この複雑な問題に対する理解を深めていきたい。


日本の年金制度の基本的な仕組みをおさらい

三階建て構造

日本の公的年金制度は、「国民年金」「厚生年金」「企業年金・個人年金」という三階建ての構造になっている。

  1. 国民年金(基礎年金):すべての国民が加入する制度。定額の保険料を納付し、65歳から定額の年金を受け取る。
  2. 厚生年金:会社員や公務員が加入する制度。給与に応じた保険料を納付し、退職後に基礎年金に上乗せして受け取る。
  3. 企業年金・個人年金:任意加入の私的年金。公的年金を補完する役割を果たす。

    年金問題

賦課方式と積立方式

日本の公的年金制度は主に「賦課方式」を採用している。これは、現役世代が納付する保険料を、その時点の高齢者の年金給付に充てる方式だ。一方、「積立方式」は各個人が自分の将来の年金のために保険料を積み立てる方式で、私的年金の多くはこの方式を採用している。賦課方式は世代間の助け合いの精神に基づいているが、少子高齢化が進む中で、その持続可能性に疑問が投げかけられている。

年金問題の現状と主な課題とは

1.少子高齢化の影響

日本の少子高齢化は世界に類を見ないスピードで進行している。2021年の統計によると、65歳以上の高齢者人口は約3,640万人で、総人口に占める割合は29.1%に達している。一方、出生数は年々減少し、2021年には81万人を割り込んだ。この人口構造の変化は、年金制度に大きな影響を与えている。支える側(現役世代)が減少し、支えられる側(高齢者)が増加することで、制度の財政的基盤が脆弱化している。

2. 低金利環境下での運用難

年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が運用する年金積立金は、2021年度末時点で約199兆円に達している。しかし、長期にわたる低金利環境下で、安定的な運用収益の確保が困難になっている。2020年度はコロナショックからの反動で高い収益率を記録したものの、2021年度は市場の変動により収益率が低下。このような運用環境の不確実性は、年金財政の安定性に影響を与えている。

3. 年金制度への信頼性低下

「消えた年金問題」や「年金記録問題」など、過去に発生した一連の問題により、年金制度に対する国民の信頼は大きく揺らいだ。また、将来の年金給付水準に対する不安も高まっており、特に若年層を中心に「払った保険料は掛け捨てになるのではないか」という懸念が広がっている。

4. 非正規雇用の増加と未加入・未納問題

労働市場の変化に伴い、非正規雇用の割合が増加している。これらの労働者の多くは厚生年金に加入できず、国民年金のみに頼らざるを得ない状況にある。また、経済的理由などから保険料を納付できない「未納者」の問題も深刻化しており、将来の無年金・低年金者の増加が懸念されている。

5. マクロ経済スライドの実施と給付水準の調整

2004年の年金制度改革で導入された「マクロ経済スライド」は、少子高齢化の進行に応じて年金給付水準を自動的に調整する仕組みだ。しかし、デフレ下ではその機能が十分に発揮されず、2015年以降ようやく本格的な適用が始まった。この仕組みにより、将来的な年金給付水準の低下は避けられない見通しだが、それが国民の老後の生活にどの程度の影響を与えるのかが大きな懸念となっている。

年金制度の持続可能性

政府の公式見解

厚生労働省は、「100年安心プラン」として、現行の年金制度が100年先まで持続可能であるとの見解を示している。2019年の財政検証では、経済成長率や労働参加率などの複数のシナリオに基づいて将来推計を行い、一定の条件下では現役世代の平均収入の50%以上の年金水準を確保できるとしている。しかし、この見通しには「楽観的すぎる」との批判も多い。特に、高い経済成長率や労働参加率を前提としているケースについては、その実現可能性に疑問の声が上がっている。

将来の年金受給に対する現実的見通し

では、私たちは将来、本当に年金を受け取ることができるのだろうか。この問いに対する答えは、「イエス」だが、いくつかの重要な但し書きが付く。

1. 給付水準の低下は避けられない

マクロ経済スライドの継続的な適用により、実質的な年金給付水準は徐々に低下していくことが予想される。2019年の財政検証によれば、最も楽観的なケースでも、2040年代には現役世代の平均収入の51.9%程度まで低下する見通しである。悲観的なケースでは40%を下回る可能性もある。つまり、将来の年金受給者は、現在の受給者と比べて相対的に低い水準の年金を受け取ることになる可能性が高い。

2. 基礎年金の最低保障機能は維持される見込み

一方で、全ての国民に等しく支給される基礎年金(国民年金)については、その最低保障機能は維持される可能性が高い。政府も、最低限の生活保障としての基礎年金の重要性を認識しており、財源の確保に努めている。ただし、基礎年金だけでは豊かな老後生活を送るには不十分であり、厚生年金や私的年金との組み合わせが必要になるだろう。

3. 受給開始年齢の引き上げの可能性

現在、年金の支給開始年齢は原則65歳だが、平均寿命の伸びや高齢者の就労増加を考慮すると、将来的に引き上げられる可能性がある。既に多くの先進国で、年金支給開始年齢の67歳や68歳への引き上げが実施または検討されている。日本でも、70歳までの就労機会の確保を企業に求める法律が施行されるなど、高齢者の就労を促進する動きがある。年金支給開始年齢の引き上げは、財政面での持続可能性を高める一方で、高齢者の就労と年金受給の在り方に大きな変化をもたらす可能性がある。

4. 私的年金の重要性の増大

公的年金の給付水準低下に伴い、企業年金や個人年金といった私的年金の重要性が増していくことは間違いない。政府も、iDeCoやNISAといった私的な資産形成を促進する制度を導入・拡充している。将来的には、公的年金を基盤としつつ、私的年金や個人の資産運用でそれを補完するという、多層的な老後の所得保障の仕組みがより一般的になっていくだろう。

5. 制度の持続可能性は政治的決断に依存

年金制度の持続可能性は、最終的には政治的な意思決定に委ねられる。保険料率の引き上げ、国庫負担の増加、給付水準の調整など、様々な選択肢の中から、国民的な合意を形成しながら決断を下していく必要がある。つまり、将来の年金受給の実現可能性は、私たち国民一人一人の意識と行動にも大きく左右されるのである。

一人一人が出来る対策(自助努力の重要性)

年金問題の現状を踏まえると、老後の生活設計において個人の自助努力がますます重要になってくる。以下に、個人でできる主な対策を挙げてみる。

1. 年金制度への正しい理解と加入

まず重要なのは、年金制度をしっかり理解し、適切に加入・納付することだ。特に若い世代の中には、「どうせ将来もらえないから」と考えて未加入・未納のままでいる人もいるかもしれないが、これは大きな誤りだ。たとえ給付水準が低下したとしても、公的年金は老後の収入の柱となる。また、保険料の納付が困難な場合は、免除・猶予制度を利用することで、将来の年金受給権を確保することができる。

2. 私的年金の活用

公的年金を補完する手段として、企業年金や個人年金の活用を検討すべきだ。特に、税制優遇のある iDeCo(個人型確定拠出年金)やNISA(少額投資非課税制度)は、長期的な資産形成に有効な手段となる。

3. 計画的な資産形成

年金だけでなく、預金、投資信託、株式、不動産など、多様な方法で資産形成を行うことも重要。特に、長期・分散・積立の原則に基づいた投資は、インフレリスクにも対応できる有効な方法である。ただし、投資にはリスクが伴うことを肝に銘じ、自身の年齢やリスク許容度に応じた適切な投資戦略を立てることが重要である。

4. 健康管理と継続的な就労

年金受給年齢の引き上げや、高齢者の就労促進が進む中、健康で長く働き続けられる身体づくりが重要になってくる。定期的な運動や健康診断の受診など、日頃からの健康管理が、結果的に経済的な安定にもつながる。また、リカレント教育などを通じて、常に新しいスキルを身につけ、雇用可能性を高めていくことも大切である。

5. ライフプランの見直し

人生100年時代と言われる今日、従来の「教育→仕事→引退」という単線的なライフコースは見直しを迫られている。複数のキャリアを持つ「マルチステージの人生」を想定し、それに応じた柔軟な資産形成や生活設計を行う必要がある。定期的にファイナンシャルプランナーに相談するなど、専門家の助言を得ながらライフプランを見直していくことも有効だろう。

年金問題

社会全体で取り組むべきこと

年金問題は個人の努力だけでは解決できない。社会全体で取り組むべき課題も多い。

1. 少子化対策の強化

年金制度の持続可能性を高めるためには、何よりも少子化傾向に歯止めをかけることが重要である。子育て支援の充実、働き方改革、教育費の負担軽減など、総合的な少子化対策が求められる。特に、「子育てと仕事の両立支援」は喫緊の課題だ。保育所の待機児童問題の解消、育児休業制度の拡充、男性の育児参加の促進など、社会全体で子育てを支える仕組みづくりが必要不可欠である。

2. 高齢者の就労促進と雇用環境の整備

高齢者の就労を促進することは、年金財政の改善だけでなく、高齢者自身の生きがいや社会参加にもつながる。しかし、それには適切な雇用環境の整備が欠かせない。フレックスタイム制やジョブシェアリングなど、高齢者のニーズに合わせた柔軟な働き方の導入、また、年齢に関わらず能力や成果で評価される人事制度の構築などが求められる。

3. 年金制度の柔軟化と多様化

現行の年金制度は、終身雇用を前提とした古い労働市場モデルに基づいている面がある。しかし、非正規雇用の増加や、副業・兼業の普及など、働き方が多様化する中で、それに対応できる柔軟な制度設計が必要である。例として、短時間労働者の厚生年金加入要件の緩和や、個人型確定拠出年金(iDeCo)の加入対象拡大なども、その一環と言えるのではないか。

4. 金融リテラシー教育の強化

年金問題を含む老後の資金計画を適切に立てるためには、一定レベルの金融リテラシーが不可欠だ。しかし、日本の金融リテラシーは国際的に見ても決して高くない。学校教育における金融教育の充実や、社会人向けの実践的な金融セミナーの開催など、生涯を通じた金融リテラシー向上の取り組みが求められる。

5. 世代間の対話と合意形成

年金制度の持続可能性を高めるためには、負担と給付のバランスを見直す必要がある。しかし、これは世代間の利害対立を生みやすい問題でもある。現実的になかなか難しいのかもしれないのだが、若者から高齢者までの異なる世代が対話を重ね、互いの立場を理解し合いながら、社会全体で合意形成していく努力が必要ではないかと考える。こうした対話の場を設けることも、政府や地方自治体の重要な役割の一つと言えるだろう。

まとめ 未来に向けた希望と課題

ここまで、日本の年金問題の現状と将来について考察してきたが、現在の年金制度には多くの課題がある。少子高齢化の進行、低金利環境下での運用難、非正規雇用の増加など、年金制度を取り巻く環境は依然として厳しさを増している。しかし、「将来、本当に年金を受け取れるのか」という問いに対しては、慎重ながらも肯定的な答えを出すことができる。以下3つを見てほしい。

  1. 制度の柔軟な対応

    これまでも年金制度は、社会経済情勢の変化に応じて幾度となく改革を重ねてきた。マクロ経済スライドの導入や支給開始年齢の段階的引き上げなど、持続可能性を高めるための努力が続けられている。
  2. 基礎年金の堅持

    全ての国民に等しく支給される基礎年金の仕組みは、最低限の生活保障として今後も維持される可能性が高い。
  3. 多層的な老後保障

    公的年金を基盤としつつ、企業年金や個人年金、そして自助努力による資産形成を組み合わせた、多層的な老後の所得保障の仕組みが整いつつある。
    ただし、将来受け取る年金の水準は、現在よりも相対的に低下する可能性が高い。したがって、公的年金だけに依存するのではなく、個人の努力による資産形成や、健康維持による就労期間の延長など、多面的な老後の生活設計が不可欠となる。

また、社会全体としても、少子化対策の強化、高齢者の就労促進、年金制度の柔軟化、金融リテラシー教育の充実など、取り組むべき課題は山積している。これらの課題解決には、政府の政策だけでなく、企業の取り組み、そして私たち一人一人の意識改革と行動が求められる。
年金問題は、単なる制度の問題ではない。それは、私たちがどのような社会を目指すのか、世代間の連帯をどのように実現するのか、という根本的な問いかけでもある。確かに課題は大きいが、悲観的になる必要はない。むしろ、この問題を契機に、持続可能で誰もが安心して暮らせる社会の実現に向けて、建設的な議論を重ね、具体的な行動を起こしていく必要がある。
年金制度は、社会の在り方を映す鏡であると思う。私たち一人一人が、この問題に関心を持ち、自分事として考え、行動することが、未来の年金制度、ひいては未来の日本社会を形作っていく。その意味で、年金問題は私たちに投げかけられた大きな宿題であり、同時に、よりよい社会を創造するチャンスでもあるのではなかろうか。
この難題に立ち向かい、世代を超えて知恵を出し合い、協力して解決策を見出していく。そうすることで、「年金を受け取れる」という希望だけでなく、「誰もが安心して老後を迎えられる社会」という、より大きな希望を実現できるはずだ。その努力を惜しまないことが、現在を生きる私たちの責務であり、未来世代への贈り物となるのではないだろうか。

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