竹細工職人・桑原哲次郎 ”後継者”としての人生哲学

今回の「にっぽん全国”シゴトのある風景”」は、熊本県八代市で明治35年から続く「桑原竹細工店」の職人・桑原哲次郎さんの想いを探る。人生の大半を竹細工作品製作にかける中、後を継ぐということの「特別なその感覚表現」に、胸を打たれた。(ALL WORK編集部)

桑原 哲次郎さん

◾️プロフィール

1961年、熊本県八代市生まれ。1902年(明治35年)創業の桑原竹細工店3代目。明治時代から竹細工が特産の地域だったが、現在は桑原竹細工店1店のみとなり、今も力強く、竹細工の伝統を守り続けている。

桑原竹細工店

 

——仕事の原動力って何ですか。

原動力は…そうですね、やっぱり使った人が、例えば箸にしても、ここのを使ったら「他のは使えない」って。そういうのを聴けば、それが原動力になりますよね。

——竹細工職人さんってすごく集中力が必要なように感じられるのですが…。

そうですね、それが仕事って思ってるから。だいたい2~3時間はここであぐらかいて仕事してます。

——仕事が大変な時は、モチベーションをどう保っておられますか。

そうですね…でも結局できることしかできんけん、待ってもらうしかないんですよね。注文が来たけんってガツガツ できるわけじゃないですからね。そこが難しいところではあります。大量生産じゃないから。まぁでも、そこが手作業のいいところでもあるんですけどね。

桑原竹細工店

——自分の仕事を含め、人生で最も苦労した時期、もしあれば、それをどう乗り越えてきたか教えてください。

苦労は、いつも、今でも、苦労してます。1人で作ってるもんだから、今は1人弟子が来てるから多少は数もできるけど、機械でするようにはいかないわけだからそこが大変ですよね。1人女の子が、近くに住んで今やってくれている弟子がいるので、そこが助かってますし、苦労はするけどそこはうちだけじゃないと思うからですね。そう思ってやってます。

——いつも何時ぐらいに仕事場に行っておられますか。

午前9時から5時(17時)ぐらいまで仕事してます。

——仕事をやっていて一番楽しい瞬間、またはそうした作業を教えてください。

作業的には別に楽しくはないけど、自分で満足する商品ができた時は自分で嬉しいです。

——私なんかは〟お菓子〝が大好きで、何かを頑張った後は自分へのご褒美として美味しいお菓子を買って食べることもあるのですが、そんな風にお仕事を頑張った後に何か楽しみにしているものやことなどはありますか。

特別はないですね。3時のおやつぐらいかな。

桑原竹細工店

——お客さんからの言葉で一番嬉しかったものってありますか。

”あたが作ったものじゃなからんばあからん”(熊本弁で、あなたが作ったものじゃないと駄目だ、という意味です)って言われれば嬉しいです。

——竹細工のどんなところが魅力だと思いますか。

長く使えば使うほど味が出てくるんですよ。今はいろんなモノが8~9割は外国産と思いますけど、そんな中、山から切ってきて材料から何から全部手作業で…。 ただ、そうした魅力をわかってくださっている全国のお客様たちからせっかく注文がたくさんあっても、なかなかこなせないから、注文はずっとあってるけどずっとお客様に待っててもらってる状態ではあります。

——竹細工職人の仕事を受け継ぐならどんな人が向いていると思いますか。

変わった人の方がいいと思います。職人はだいたい不器用な人がいい。器用な人は長くは続かない、今まで見てきて。不器用な人の方が、うまくいかないから、真剣にやってくれて、長く続くんですよ。

——意外です。不器用な人の方が職人に向いているのですね。桑原さん自身は、若い頃から手先が器用だと褒められたりしていましたか。

全然!!!逆に、私自身、不器用です。

——桑原さんは人生のかなりの時間を竹細工に費しておられると思いますが、もしも人間が生まれ変わるということがあるとして、生まれ変わってもまた、竹細工職人になりたいですか。

いや、全然なりたくない。仕方なしが始まりなんで。 うちは代々これしてるから。3代目ですから。もちろん遊んどって(遊んでて)暮らせるならそれが一番いいですけど、そういうわけにはいかないですからね。

——そうですか。でも、全国から注文が来てて、こんな人気で羨ましいですけどね。

いや、でも、甘いもんじゃないですよ。趣味でかごとか作るっていうのはいいだろうけど、それで生活せなんってのは大変ですよ。

——そうですよね、大変ですよね…。現実的な回答をしていただきありがとうございます。

それでもやっぱり、1回ここのモノを買って使った人が、他のところのものを買って「やっぱり違う」って言って、ここのをまた買いに来られると、それがすごく嬉しくて、やりがいになりますけどね。

帰り際、これを見てくださいと桑原さんがいくつかのものを見せてくれた。

桑原竹細工店

1つは壁に貼ってあった「週刊文春」の表紙の絵だ。

そこには、桑原竹細工店に売られている、お相撲さんが相撲を取っている商品と全く同じものが絵になって描かれていたが、なんと和田誠さんが4~5年前に書いたものらしい。さすが全国から注文が来る人気の伝統工芸!!!

相撲のこれはね(相撲のこの作品は)、昔この辺で相撲が盛んにあってて、あんまり強かったから××されたりした人もいて、それを偲んで作っています。

——なんて酷い!!!驚いたけど、そんな深い意味があったんですね。

おきんじょ人形も人気ですよ。

そう言って、竹細工店の名物である”おきんじょ人形”と一緒に写真に写ってくださった。

また、取材をしている間にもお客さんが来られて商品を買って行かれた。注文は注文で県外からたくさん来ているし、桑原さんは大変だ。でも最近は東京から弟子の女の子も一人来ているとのことで、その子がいる時はおかげでだいぶ助かっているんですよ、ということも教えてくださった。ちなみに、桑原さんに、この街でずっと働いておられるのはやっぱりこの街が好きだからですか?という質問をしたら、特別そういうわけじゃなく、後継者だからね、とお答えになった。そのように正直に答えてくださる姿にとても好感を持ったし、桑原さんはいい意味で「不器用な人」なのかもしれないなと思った。桑原さんが、先ほどの質問で、「職人には不器用な人が向いている」と言っていたが、本当にそうなのかもしれないと思った。スピードや生産性を重視し大量生産が良いという風潮や時代の中で、不器用でも誠実な、桑原さんの手から生まれる作品を「やっぱりここのでなくちゃ」と何度も買いに来る人の気持ちがわかる気がした。
桑原竹細工店
ライター紹介

ライター ココリ

ココリ
学生時代からライティングをのお仕事を始め、雑誌・新聞・Web媒体などで執筆。朝礼雑誌「月刊朝礼」のライターとしても長く活躍。

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ALL WORK編集部
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