ものづくりの力で人と人を結ぶ——池田町のハンドメイド作家・中野昌代さんの挑戦

また、人間の集中力には限界があるので、その日のうちに完成できないこともあります。ただしそれで終わりにするのではなく、「今日はここまでにして、心と体が整ったときに続きをやろう」と声かけするようにしています。

―そうすると、受講生とずっとつながっていく形になりますね。

そうですね。たとえば「今日はここまでやったけど、次の授業までにもう少し進めてみようね」と、伝えておいて、LINEで進捗を報告してもらうこともあります。そうやって、ワークショップの時間だけで終わらせず、継続的にフォローしていくようにしています。

―素敵な指導スタイルですね。厳しく指導するというよりも、愛情を持って寄り添う感じでしょうか?

まさにそうですね。「褒めて、認めて、愛して、待つ」。これが私のスタイルです。厳しくする必要は全くないと思っています。

 

「好き」を信じる力——挫折を乗り越え、自分らしいものづくりへ

― これまでのキャリアのなかで何か悩んだことはありましたか?
はい、作家としてイベントに出るようになると、「どこの専門学校で学んだんですか?」「資格は持っていますか?」と聞かれることが増えて、自分が本当にこのままでいいのかと不安になってしまって……。

さらに「この値段で本当にいいの?」「周りの価格に合わせた方がいいんじゃない?」といった言葉を受けるたびに、自分の作品の価値を疑うようになってしまったんです。

― そうした声を受けて、どんな気持ちになりましたか?
自分が作りたいと感じたままにデザインして、それを形にして届ける——そのシンプルなことが、本当に人のためになっているのか、自信がなくなってしまいました。

学校に行って学んでいないことが悪いことなのか、値段を自分で決めて売ることが間違っているのか……。考えれば考えるほど、ものづくりをすること自体が怖くなってしまって、それでしばらく作るのをやめたんです。

― そこから、どうやって立ち直っていったのでしょうか?
大きなきっかけは、自然の中に身を置いたことでした。近隣の道の駅の足湯に行ったとき、ふと空を見上げたら、雲が流れて太陽がきれいに輝いていたんです。その景色を見ていたら、なんとなくスケッチをしたくなって…。気がついたらノートを開いて、久しぶりにデザインを描いていました。

― その瞬間、「好き」を再確認したんですね。
そうなんです。「ああ、やっぱり私は作ることが好きなんだ」と心の底から思いました。そこからまたサンキャッチャーを作り始めて、お店に委託販売したら「こんなに心が温まるサンキャッチャーは初めて」「すごく素敵」と言ってくださる方がいて……。その言葉を聞いたとき「私は私のままでいいんだ」と思えました。

― ものづくりをするうえで、一度立ち止まったことが大きな気づきにつながったんですね。
はい。「自分を待ってあげる」ことの大切さを学びました。焦って無理に作るのではなく、本当に「やりたい!」と思うまで待つ。私は三ヶ月間ものづくりを手放しましたが、その時間があったからこそ、自分の「好き」を確信できたんです。

「やらなきゃ」と無理に頑張るのではなく、自分の気持ちが自然と動くのを待つ。これって、ものづくりだけじゃなくて、どんなことにも言えると思います。自分を信じて待ってあげることが、前に進むための大きな一歩になるんですよね。

 

ハンドメイドを仕事にするために大切なこと

―今後、ハンドメイドを仕事にしたいと考えている方へのアドバイスはありますか?

自分が本当に好きだと確信できるものを選ぶことだと思いますね。

ものづくりのジャンルはたくさんありますが、「これならできそうかな?」と、モヤモヤを抱えた状態で始めるのは、あまりおすすめできません。純粋に 「これが好き!」 と思えるもので始めると良いのかなと思います。

私の場合、お姑さんにサンキャッチャーの作り方を教えてもらったときに、 心がときめいたんです。そして「これを仕事にしたい!」と感じたのがすべての始まりでした。この気持ちはどんなことがあってもブレなかったですね。

―本当に好きだと感じたからこそ、続けられたんですね。

はい。たとえ体調が悪くても、ものづくりと向き合っている時間は癒されるし、考えている時間も愛おしい。好きだからこそ、ものづくりについて徹底的に調べるのは楽しいし、知識や技術も身についていくんですよね。

たとえば、サンキャッチャーを作るときはただ材料を選ぶのではなく、「光の角度」「太陽の位置」「自然との調和」 など、さまざまな視点から調べます。サンキャッチャーを自然の中に置いたとき、木々の緑と光がどんなふうに交わるのか。あるいは、その石に光を通すと、どんな色に変化するのかなど。

ガーネットという真っ赤な石も、太陽光に当てて写し出すとオレンジや黄色に見えることがあるんです。そういう光の屈折やプリズムの変化を研究するのが楽しくて、顕微鏡を使って鉱物の構造まで調べたりもしていますね。

―すごく深いですね。「光」を扱うサンキャッチャーだからこそ、そこまで細かく研究する必要があるんですね。

はい。でも、そこまで細かく見られるのは、単純に 「好き」の気持ちが強いからなんですよね。

―自分の「好き」なものを見つけたとして、次に実際に行動に移すなら、どんなことから挑戦するといいでしょうか?

作ったものを誰かに届けることから始めるとよいと思います。たとえば、家族や親しい人にプレゼントしてみる。自分の心を込めて作ったものを、大切な人に届けることが、作家としての最初の一歩に最適ですね。

―さきほども「お客様が喜ぶ瞬間が嬉しい」とおっしゃっていましたね。まずはその感覚を味わってみることが大切なんでしょうか?

そうですね。誰かが心から喜んでくれる瞬間を感じることで、「もっと作りたい」という気持ちが自然と湧いてくると思います。そうやって 「誰かのために作る」 という経験を重ねていくうちに、「これを仕事にしよう」という確信が生まれるのではないでしょうか。

 

「作る・伝える・つなぐを広げる」—今後のビジョン

―今後、新たに挑戦したい取り組みはありますか?

いずれは自分の生まれ育った北海道十勝で、全国のサンキャッチャーを集めた作品展を開きたいと思っています。

―どんな作品展にしたいですか?

「作る・伝える・つなぐ」 をテーマに、ものづくりの魅力を広げる場にしたいですね。

ハンドメイド作家同士のつながり、子どもからお年寄りまで、ものづくりを通してつながれる場。そんなコミュニティを作りたいと思っています。

イベントを通して「この人に習いたい」「この人と一緒に学びたい」と思えるような出会いを生み出し、新しいご縁が広がっていく場になればいいなと。

単に「作品を見る」だけではなく、ものづくりに興味を持つ人やこれから始めたい人が集まり、学び合える機会を作りたいんです。

―ものづくりを起点として、人と人とのつながりを広げていくイメージですか?

そうですね。全国に「ものづくりの拠点」のようなつながりができたらいいなと思っています。たとえば、「北海道の拠点、千葉の拠点、九州の拠点」みたいな感じで、全国にものづくりを通じた仲間たちが増えていったら素敵だなと。

そして私自身も年齢を重ねたら「名物おばあちゃん」 みたいな感じで全国を回って、「どうだい?元気にやってるかい?」なんて声をかけるのが夢ですね(笑)。

これからも「作る・伝える・つなぐ」を軸にして、ものづくりを通して人と人がつながる場を作り続けていきたいと思っています。もし「ハンドメイドを仕事にしたい」「ものづくりを学びたい」と思った人がいたら、気軽に来てほしいですね。一緒に楽しみましょう。

ライター紹介

近藤大輔
「にっぽん全国”シゴトのある風景”」北海道エリア担当ライター
スーパーやドラッグストアなど小売業に15年従事した後、2021年よりフリーランスのライターとして活動中。プログラミングスクールをはじめとして、さまざまな業種・分野の企業でオウンドメディアの執筆・編集に携わる。2児の父。熱狂的な音楽フリーク。ロックをこよなく愛する。

 

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ALL WORK編集部
ALL WORK JOURNAL、にっぽん全国”シゴトのある風景”コンテンツ編集室。その他ビジネスハック、ライフハック、ニュース考察など、独自の視点でお役に立てる記事を展開します。

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