なぜ氷河期世代は苦しいのか|その背景と将来、そして生き残りのための戦略

なぜ氷河期世代は苦しいのか|その背景と将来、そして生き残りのための戦略

就職難、収入格差、昇進の遅れ、老後不安――。「氷河期世代」と呼ばれる人々は現在、深刻な問題に直面している。日本社会における「失われた世代」とも称される彼らは、なぜこれほどまでに厳しい状況に置かれているのだろうか。そしてその影響は今後どのように広がっていくのか。本記事では、氷河期世代が抱える問題の全体像を明らかにするとともに、この世代特有の苦しみの背景にある社会構造的な問題を掘り下げていく。

氷河期世代とは|定義と範囲

「氷河期世代」とは一般的に、1993年から2004年頃までの就職氷河期に学校を卒業し、社会に出た世代を指す。具体的には、1970年代前半から1980年代前半に生まれた、現在40代前半から50代前半の人々である。この時期は、バブル経済崩壊後の日本経済が長期停滞に陥り、企業の採用活動が大幅に縮小されていた。

新卒一括採用を基本とする日本独特の雇用システムの中で、この時期に就職活動を行った若者たちは、「入社のチケット」を手に入れる機会そのものを失った。これにより、彼らの多くは非正規雇用としてのスタートを余儀なくされ、その後もキャリア形成において大きなハンディキャップを背負うことになったのである。言うまでもなくこの世代のすべての人を指している訳ではないが、厚生労働省の調査によれば、氷河期世代の中で不本意非正規雇用者は約50万人、無業者は約40万人と推計されている。彼らは日本社会の中で「見えない存在」となり、経済的にも社会的にも周縁化されてきた。

深刻な実態|数字で見る氷河期世代の苦境

なぜ氷河期世代は苦しいのか|その背景と将来、そして生き残りのための戦略

氷河期世代の苦境は、様々な統計データからも明らかである。例えば、正社員として働いている割合は他の世代に比べて10〜15%ほど低く、年収も同年齢の前後の世代と比較して平均で100万円以上少ないというデータもある。

この収入格差は単年で終わる問題ではない。生涯賃金でみると、氷河期世代と前後の世代との差は3,000万円から5,000万円にも達するという試算もある。これは住宅購入や子育て、さらには老後の資金形成にも大きな影響を及ぼす差である。

また、正規雇用への道が閉ざされたことで、結婚や出産といったライフイベントにも影響が出ており、氷河期世代の未婚率は他の世代よりも高い傾向にある。国立社会保障・人口問題研究所の調査によれば、氷河期世代の生涯未婚率は男性で約25%、女性で約15%に達すると予測されている。

さらに深刻なのは、彼らが現在直面している「ミドル・クライシス」である。40代、50代となり、本来であれば組織の中核として活躍し、最も収入が高くなるべき時期に、キャリアの遅れや収入の伸び悩みという現実に直面している。そして、彼らの多くは親の介護と子育ての「ダブルケア」問題も抱えている。

歴史的・社会的背景

氷河期世代の誕生には、様々な要因が関わっている。まず最も直接的な原因は、1991年のバブル経済崩壊である。好景気を背景に拡大路線を取っていた企業は、バブル崩壊後一転して人員削減や採用抑制に走った。

また、この時期は日本の産業構造が大きく変化した時期でもあった。製造業の海外移転が加速し、国内での雇用機会が減少。ITやサービス業への転換が進む中、求められるスキルと教育内容のミスマッチも生じていた。

さらに重要なのは、日本型雇用システムの硬直性である。新卒一括採用と終身雇用を前提とした制度の中で、一度レールから外れると復帰が極めて困難であるという構造的問題があった。「新卒でないと採用しない」という企業の姿勢は、氷河期世代のチャンスをさらに狭めることになった。

政策的な対応の遅れも指摘できる。バブル崩壊後の長期不況に対して、政府は「構造改革」の名の下に労働市場の規制緩和を進めた。しかし、それは非正規雇用の拡大をもたらしただけで、正規雇用への移行を促す効果的な政策は遅れた。その結果、若年層の雇用環境は悪化の一途をたどったのである。

「自己責任論」の罠|個人では解決できない構造的問題

氷河期世代の問題を語る上で避けて通れないのが「自己責任論」である。「努力が足りない」「スキルアップを怠った」「チャレンジ精神が欠如している」といった個人の資質に原因を求める見方が、社会に根強く存在している。

しかし、これは明らかに視点のすり替えである。個人の努力だけでは解決できない社会構造的な問題が、氷河期世代の苦境の本質にある。例えば、どれだけ個人が努力しても、新卒採用枠が大幅に削減されている状況では、正規雇用への入り口そのものが狭められているのである。

また、非正規から正規への転換が制度的に困難である日本の労働市場では、一度非正規のレールに乗ってしまうと、その後どれだけ努力してもキャリアアップの機会が限られてしまう。これは個人の問題ではなく、社会システムの問題である。

自己責任論は、問題の本質から目を逸らし、社会的な対応を遅らせるだけでなく、当事者に不必要な心理的負担を強いることにもなる。実際、氷河期世代の中には、自分を責め続け、メンタルヘルスの問題を抱える人も少なくない。

見過ごされてきた心理的影響|自己肯定感の喪失と孤立

氷河期世代の問題は経済的なものだけではない。長期にわたる不安定な雇用状況や収入の低さは、深刻な心理的影響ももたらしている。

特に大きいのは「自己肯定感の喪失」である。社会から必要とされていない、評価されていないという感覚は、自己価値の認識を著しく低下させる。「同じ年齢の人と比べて何も成し遂げていない」「このまま取り残されていくのではないか」という不安は、彼らの日常的な心理状態となっている。

また、経済的な理由から人間関係を維持することも難しくなり、社会的孤立に陥るケースも多い。同窓会や同期会に参加できない、交友関係を維持するための費用が捻出できないなど、徐々に人とのつながりが失われていく。

このような心理的・社会的な問題は、長期的に見れば身体的健康にも影響を及ぼす。実際、氷河期世代の中には、うつ病やその他のメンタルヘルス障害の発症率が高いというデータも出ている。社会的孤立が進めば、「孤独死」のリスクも高まる。これは個人の問題であると同時に、社会全体の損失でもある。

年齢差別と技術変化の波

氷河期世代が直面している困難は、時間の経過とともにさらに複雑化している。彼らはいま、「年齢差別」という新たな壁にも直面しているのである。

採用市場では、40代、50代の求職者に対する根強い偏見が存在する。「柔軟性がない」「新しい環境に適応できない」「給与水準が高すぎる」といった先入観が、氷河期世代の再就職をさらに困難にしている。実際には個人差があるにもかかわらず、年齢というだけで機会を奪われるケースが後を絶たない。

さらに、デジタル技術の急速な発展により、求められるスキルセットが大きく変化している。AIやデータ分析、プログラミングといった新たなスキルへの対応が求められる中、体系的な学び直しの機会が十分に提供されているとは言い難い。

ミドルシニア層向けのリスキリング(学び直し)プログラムは増えつつあるものの、時間的・経済的な余裕がない氷河期世代にとって、これらの機会を活用することさえ難しい状況にある。日々の生活に追われる中で、長期的なスキル投資に踏み切れないのが現実である。

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