
要領の悪さは才能ではなく習慣である
「あの人、いつも忙しそうなのに成果が出ていないよね」。職場でそんな会話を耳にしたことはないだろうか。一方で、涼しい顔で定時退社しながらも抜群の成果を出している人もいる。この差は一体どこから生まれるのか。実は、要領の良し悪しは生まれ持った才能ではなく、日々の習慣やものの考え方に起因することが多い。
要領が悪い人は、本人が真面目で努力家であるほど、周囲も本人も気づかないうちに損をしている。残業時間が増え、プライベートの時間が削られ、それでいて評価は上がらない。さらに悪いことに、チーム全体の生産性を下げてしまうケースもある。
本コラムでは、ビジネスシーンや日常生活で「要領が悪い」と言われる人に共通する特徴を20項目にわたって深掘りしていく。自分に当てはまる項目がないか、チェックしながら読み進めてほしい。
1. 優先順位をつけられない|すべてを同時にやろうとする罠
要領が悪い人の最大の特徴は、すべてのタスクを同列に扱ってしまうことである。メールの返信も、重要なプレゼン資料の作成も、デスク周りの整理整頓も、すべてが「やらなければならないこと」として頭の中に並んでいる。結果として、何から手をつければいいのか分からず、目の前にあるものから手当たり次第に取り組んでしまう。
この習慣が損を生むのは、緊急度と重要度の区別がつかないからだ。たとえば、明日の午前中に社長向けのプレゼンがあるにもかかわらず、「届いたばかりのメールに返信しなければ」と考えてしまう。そのメールは実は来週返信しても問題ないものだったりするのだが、受信トレイに未読があると気になって仕方がない。こうして本当に重要な仕事に充てるべき時間とエネルギーが分散し、結局どれも中途半端になってしまうのだ。
周囲からすれば「なぜあの人は重要な仕事をギリギリまで放置しているのか」と映る。本人は決してサボっているわけではなく、むしろ一生懸命働いているのだが、その努力が間違った方向に向かっているため、評価されにくい。
2. 完璧主義に囚われている|60点で良いものに100点を目指す
完璧主義は一見すると美徳に思えるが、要領の悪さを生む大きな原因のひとつである。すべての仕事に100点満点を求めてしまうと、本来80点で十分な業務に過剰な時間とエネルギーを費やしてしまう。
たとえば社内会議用の資料作成において、フォントの統一やグラフの色合い、余白の調整に何時間もかける人がいる。もちろん見栄えの良い資料は望ましいが、社内会議であれば内容が伝われば十分な場合も多い。一方、クライアント向けの提案書であれば細部にこだわる価値がある。この使い分けができないと、すべてに全力投球してしまい、結果として時間が足りなくなる。
完璧主義者は「適当な仕事をして評価を下げたくない」という恐れを抱えているが、皮肉なことに、この姿勢が逆に生産性を下げ、「仕事が遅い人」という評価につながってしまう。ビジネスの世界では、100点の成果物を1つ出すよりも、80点の成果物を3つ出す方が価値が高い場合が多いのだ。
3. 段取りを考えずに着手する|見切り発車の代償
料理に例えると分かりやすい。優秀な料理人は調理を始める前に、すべての材料を切り揃え、調味料を準備し、段取りを頭に入れてから火をつける。一方、段取りが悪い人は、炒め物をしている最中に「あ、ネギを切り忘れた」と気づき、慌てて包丁を取り出す。その間に鍋の中身は焦げ付いてしまう。
仕事でも同じことが起きる。プロジェクトの全体像を把握せずに、とりあえず目の前の作業から始めてしまう。すると後になって「この情報が必要だった」「あの部署に確認しておくべきだった」と気づき、手戻りが発生する。最初に5分かけて段取りを考えておけば防げたミスに、30分以上を費やして修正する羽目になる。
この傾向は特に新しいプロジェクトや慣れない業務で顕著に現れる。「早く始めなければ」という焦りから、計画段階を飛ばしてしまうのだ。結果として無駄な動きが増え、本人も疲弊し、周囲にも「あの人に任せると何度も確認や修正が必要になる」という印象を与えてしまう。
4. 人に頼れない|抱え込んで自滅するパターン
「自分でやった方が早い」「人に迷惑をかけたくない」という思いから、すべてを一人で抱え込んでしまう人がいる。一見責任感が強く見えるが、これは要領の悪さの典型例だ。
組織で働く以上、チームワークは不可欠である。自分が得意ではない分野や、他の人の方が効率的にこなせる業務まで抱え込むと、全体の生産性が下がる。たとえばデータ集計が得意な同僚がいるのに、自分で時間をかけて格闘するのは非効率的だ。その時間を自分の得意分野に充てれば、チーム全体としてより大きな成果が生まれる。
さらに問題なのは、抱え込んだ結果、期限に間に合わなくなったり、品質が低下したりすることだ。そうなると結局、周囲に迷惑をかけることになる。「最初から相談してくれれば手伝えたのに」と言われてしまうのは、要領が悪い人の典型的な失敗パターンである。
5. 判断を先延ばしにする|決められない人
「もう少し情報を集めてから決めよう」「もっと良い選択肢があるかもしれない」。こうして判断を先延ばしにすることで、貴重な時間が失われていく。要領が悪い人は、決断することへの恐れから、不必要なほど長い時間を意思決定に費やす。
ビジネスにおいて、完璧な情報が揃うことはほとんどない。80%の情報が集まった時点で決断し、進みながら修正していくのが現実的なアプローチだ。しかし判断を先延ばしにする人は、100%の確信を得ようとして永遠に決められない。その間にも市場は動き、競合は先に進み、機会は失われていく。
例えば会議で「この件は次回までに考えておきます」と言って持ち帰るが、次回も「まだ判断できません」と繰り返す。結果として、プロジェクト全体が停滞し、関係者全員の時間を無駄にすることになる。決断の先延ばしは、一見慎重に見えるが、実は最も無責任な態度なのである。
6. 同じミスを繰り返す|学習曲線が描けない
一度失敗したことから学び、二度目は同じ過ちを犯さない。これは成長の基本である。しかし要領が悪い人は、なぜか同じミスを何度も繰り返す。
原因は振り返りの欠如にある。失敗した時に「なぜそうなったのか」「次はどうすれば防げるのか」を深く考えず、その場しのぎで対処してしまう。あるいは失敗そのものを早く忘れたくて、きちんと分析せずに次に進んでしまう。
例えば、会議の準備不足で上司から指摘を受けたとする。その時は反省するが、具体的な改善策を立てないため、次の会議でも同じように準備不足になる。周囲からすれば「前回も同じ指摘をしたのに、なぜ改善されていないのか」という不満が募る。
同じミスの繰り返しは、個人の成長を妨げるだけでなく、周囲からの信頼も失う。「あの人に任せるとまた同じ問題が起きる」と思われてしまえば、重要な仕事は回ってこなくなる。
7. マルチタスクに固執する|集中力の分散がもたらす非効率
「同時に複数のことをこなせる人が優秀だ」という誤解がある。しかし脳科学の研究によれば、人間の脳は本質的にマルチタスクに向いていない。複数の作業を同時に行っているつもりでも、実際には高速で注意を切り替えているだけで、その都度、脳には切り替えコストが発生している。
要領が悪い人は、このことを理解せず、メールを書きながら電話に出て、その合間に資料を確認しようとする。結果として、すべてが中途半端になり、ミスも増える。メールには誤字があり、電話の内容は聞き漏らし、資料の理解も浅くなる。
一方、要領が良い人は、ひとつのタスクに集中し、それを完了させてから次に移る。この「シングルタスク」のアプローチの方が、実は全体としての処理速度は速く、品質も高い。集中して20分で完了する作業を、マルチタスクで1時間かけてこなすのは、明らかに非効率である。
マルチタスクは生産性を上げるどころか、疲労を増大させ、ミスを誘発し、結果として余計な時間を消費する悪習なのだ。
8. 情報を整理できない|カオスの中で溺れる日常
デスクの上は書類の山。パソコンのデスクトップはファイルでいっぱい。メールの受信トレイには数千の未読メール。こうした状態で働いている人は、確実に要領が悪い。
情報整理ができないと、必要な時に必要な情報が見つからない。「あの資料、どこにいったっけ」と探すことに毎日30分費やしているとしたら、年間で120時間以上を無駄にしている計算になる。これは丸々3週間分の労働時間に相当する。
さらに深刻なのは、情報の洪水の中で重要なことを見落としてしまうリスクだ。上司からの重要なメールが他の大量のメールに埋もれて気づかなかった、というのは要領が悪い人のあるある話である。
情報整理は単なる見た目の問題ではない。思考のクリアさに直結する。頭の中も机の上と同じようにごちゃごちゃしていて、何が重要で何が不要かの判断がつかなくなっているのだ。
9. 時間の見積もりが甘い|楽観的すぎる予測の落とし穴

「この仕事、1時間あれば終わるだろう」と見積もって着手したが、実際には3時間かかった。こうした経験は誰にでもあるが、要領が悪い人はこれが常態化している。
時間見積もりの甘さは、計画全体を狂わせる。午前中に終わると思っていた仕事が昼過ぎまでかかれば、午後の予定はすべて後ろ倒しになる。結果として残業が発生し、プライベートの時間が削られ、疲労が蓄積する。
これは他人との約束にも影響する。「午後3時までに資料を送ります」と約束したのに、実際には夕方になってしまう。相手はその資料を前提に予定を組んでいたかもしれず、迷惑をかけることになる。
時間見積もりが甘い人は、過去の経験から学んでいない。前回3時間かかった作業を、次も「今度こそ1時間で終わるはず」と根拠なく楽観視する。この学習能力の欠如が、慢性的な時間不足を招いているのだ。
10. 「ノー」と言えない|引き受けすぎる人の末路
「頼まれたら断れない」という性格の人は、一見協調性があり、チームプレイヤーに見える。しかし実際には、自分のキャパシティを超えて仕事を引き受けてしまい、結局どれも満足にこなせなくなる。
ビジネスパーソンとして重要なスキルのひとつは、適切に断ることだ。自分の能力や時間の限界を理解し、それを超える依頼には丁重にノーと伝える。あるいは、優先順位を明確にして「Aの仕事を後回しにすれば、Bをお引き受けできます」と交渉する。
しかし要領が悪い人は、こうした交渉をせず、すべてを「はい」と引き受けてしまう。その結果、睡眠時間を削って働き、それでも期限に間に合わず、品質も低下する。最終的には「あの人に頼むと結局遅れるから、信頼できない」という評価につながってしまう。
断ることは無責任ではなく、むしろ自分が引き受けた仕事に責任を持つための誠実な態度なのである。
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