
私たちが知らない宇宙の95%
夜空を見上げると、無数の星々が輝いている。しかし、私たちが目にしているのは宇宙のほんの一部に過ぎない。驚くべきことに、現代の天文学が明らかにしたのは、観測可能な物質は宇宙全体のわずか5%しかないという衝撃的な事実である。
残りの95%は何なのか。科学者たちはこれを「ダークマター」と「ダークエネルギー」と呼んでいる。ダークマターは宇宙の約27%を占め、ダークエネルギーは約68%を占めるとされる。これらは光を発せず、直接観測できないため「ダーク(暗黒)」と名付けられた。まるで、私たちは宇宙という巨大な氷山の一角だけを見ているようなものだ。
ダークマターの存在は、銀河の回転速度の観測から推測されている。銀河の外縁部は、目に見える物質の量から計算される速度よりもはるかに速く回転している。これは、目に見えない何らかの物質が重力を及ぼしているとしか説明できない。しかし、その正体は一切不明である。素粒子なのか、それとも全く未知の物質なのか。世界中の研究者が地下深くに巨大な検出器を設置し、ダークマターの粒子を捉えようと試みているが、今のところ決定的な証拠は得られていない。
宇宙は加速しながら膨張している謎
1998年、天文学者たちは宇宙史を覆す発見をした。宇宙は膨張しているだけでなく、その膨張速度が加速しているのである。これはビッグバン理論の予測とは真逆の現象だった。
本来、宇宙には無数の銀河や物質が存在し、それらの重力によって膨張は減速していくはずだった。りんごが地面に落ちるように、宇宙全体が互いに引き合い、膨張のブレーキになると考えられていた。ところが実際は、何らかの未知のエネルギーが宇宙を押し広げ、その力は時間とともに強まっているのである。
この謎のエネルギーが「ダークエネルギー」である。科学者たちは、真空のエネルギーや宇宙定数など様々な仮説を立てているが、その本質は全く解明されていない。宇宙の大部分を占めるエネルギーの正体が分からないというのは、人類の知識がいかに限定的かを物語っている。
このダークエネルギーの謎が解明されるのは、おそらく数十年から百年単位の時間が必要だろう。新しい観測技術や理論物理学の飛躍的進歩が求められる。次世代の宇宙望遠鏡や粒子加速器が鍵を握っているかもしれない。
ブラックホールの内部で何が起きているのか
ブラックホールは宇宙で最も不思議な天体の一つである。その重力は光さえも脱出できないほど強力で、事象の地平線と呼ばれる境界を越えると、二度と外に出ることはできない。
では、ブラックホールの中心部では何が起きているのか。アインシュタインの一般相対性理論によれば、中心には「特異点」と呼ばれる密度が無限大になる点が存在する。しかし、これは物理学の破綻を意味している。無限大という値が出てくるとき、それは理論が適用限界に達したことを示すのだ。
量子力学とブラックホールの物理を統合しようとすると、さらに奇妙な問題が浮上する。有名な「情報のパラドックス」である。量子力学では情報は決して失われないとされるが、ブラックホールに物質が落ち込むと、その情報は永遠に失われてしまうように見える。この矛盾は、スティーブン・ホーキングが提唱した「ホーキング放射」によって部分的に解決されたが、完全な答えはまだ得られていない。
ブラックホールの内部構造の解明には、量子重力理論の完成が不可欠である。現在、超弦理論やループ量子重力理論などが研究されているが、実験的に検証する方法がほとんどないのが現状だ。この謎の解明には、少なくとも数十年、もしかすると一世紀以上かかる可能性がある。
宇宙の始まりの0.0000000000000000000000000000000000001秒
ビッグバン理論は、宇宙が約138億年前に超高温・超高密度の状態から始まったことを説明する。しかし、絶対的な「始まり」の瞬間については、物理学は沈黙せざるを得ない。
宇宙誕生から10のマイナス43乗秒(プランク時間)より前については、現在の物理学では何も語ることができない。この極限的に短い時間スケールでは、量子効果が時空そのものを支配し、私たちが知っている物理法則が通用しなくなるのだ。
また、ビッグバンの前に何があったのかという問いも未解決である。時間と空間自体がビッグバンで誕生したのなら、「前」という概念すら存在しないことになる。一方で、サイクリック宇宙論のように、宇宙は膨張と収縮を繰り返しているという説もある。あるいは、私たちの宇宙は無数に存在する宇宙の一つに過ぎないという「マルチバース理論」も提唱されている。
これらの問いへの答えは、おそらく私たちの生きている時代には得られないだろう。宇宙の起源の解明は、人類の科学的探求の最終目標の一つであり続けるはずだ。
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