今回の「にっぽん全国“シゴトのある風景”」では、株式会社暇楽を運営する前田まさよさんにインタビューを行いました。前田さんは、2003年5月から2021年11月までの18年間、福岡県糸島の大人気観光スポットで手作り石けん工房を運営し、多くのファンに愛されてきました。現在は福岡市中央区でコスメ製造ラボを展開。オーガニックやボタニカル素材を中心としたOEM受託製造、卸販売、そしてアロマコスメスクールを運営されています。また、2024年2月からは、最短1ヶ月でアロマ講師として独立を目指せる講座を開講予定。フリーランスとして働きながら稼げる仕組みづくりを積極的に提案されています。今回のインタビューでは、フリーランスを応援する活動や、お店を円滑に運営するための工夫、そして社員教育への取り組みについて、たっぷりとお話を伺いました。
前田 まさよ(まえだ まさよ)さん
◾️プロフィール
2003年5月、糸島市の海辺に「手作り石けん工房 暇楽」をオープンし、18年間店舗&工房を運営。2021年11月に福岡市中央区平尾3丁目へ移転し、アロマコスメ製造ラボ「Kalaku-labo」をリニューアルオープン。アロマ香水DIY調合体験やマイコスメ作りを学ぶスクールを開催し、アロマを通じた癒しと学びの場を提供している。2024年2月からは、最短1ヶ月で人気アロマ講師を目指せる「アロマパワー香水師養成講座」を新たに開講予定。
「Kalaku-labo」SNS
環境への想いから産まれた石鹸工房
―――この事業をはじめたきっかけを教えてください。
「はい、実は2003年5月1日にオープンしたんですが、そもそも糸島に移住したのがきっかけなんです。私、病気を患って療養のために糸島に引っ越してきたんですよ。それがまた、結構な僻地で(笑)。下水道もなくて、井戸を掘るところから始まりました。」
―――井戸を掘るところから…それはすごいですね!
「そうなんです。でも、井戸を掘ったら、それだけじゃ終わりじゃなくて、その水を海に流すためにはろ過しなきゃいけないって言われて。工事を担当してくれた業者のおじさんから『あまり合成洗剤を流さないでね』って注意を受けたんです。それで初めて、家庭排水が海や魚に与える影響について考えるようになりました。」
―――そこから石鹸作りに繋がるんですね?
「そうなんですよ。その頃、療養中でとても暇だったので、いろんな本を読んだり、環境について調べたりしているうちに、自分で環境に優しい石鹸を作るようになったんです。最初は趣味というか、ただの暇つぶしだったんですけどね。」
―――なるほど。最初から事業として始めたわけではなかったんですね。
「全然です(笑)。6畳の部屋が石鹸でいっぱいになるくらい作って、それを周りの人に配ったんです。そしたら、意外にも評判が良くて『もっと作ってほしい』『販売してみたら?』という声をいただいて…。それで少しずつ注文が増えて、気がついたら商売として成り立つようになっていました。こうして『糸島の石鹸工房Kalaku』が生まれたんです。」
―――すごいですね。まさに必要に迫られて、そこから事業へと発展したんですね!
「そうですね。最初は何も考えず始めたんですが、今ではこれが自分の生きがいになっています。環境のことを考えるきっかけにもなりましたし、本当に感謝ですね。」
観光地経営のリアル
―――経営者として、一番苦労したことは何ですか?
「そうですね…糸島は観光地なので、お客さんの数が月ごとに大きく変動するんです。それがまず大変でした。シーズン中は全員で接客にまわるんですけど、逆にお客さんが少ない時期は、みんなで石鹸を作りだめしたり、経営戦略を練ったりしていました。」
―――確かに観光地ならではの課題ですね。その波に合わせるのは大変そうです。
「はい。でも、やっぱり一番苦労したのは従業員同士のぶつかり合いのコントロールですね。私たちは小さなチームで、最初は4~5人くらいだったんですけど、従業員が2人以上いると、どうしてもいざこざは起きるんですよ。」
―――わかります…小さな組織だからこそ、関係性が近くて難しい部分もありそうです。
「本当にその通りです。些細なことがきっかけで揉めることもありますし、それを解決するのには一番頭を悩ませました。特に糸島のような観光地では、スタッフも無意識のうちにお客さんと一緒に“非日常”を求めてしまうことがあって、『もっとゆったり働きたい』なんて言われたこともあります(笑)。」
―――なるほど、観光地ならではの独特な問題ですね。その中でどのように対応されたんですか?
「気をつけたのは、従業員を平等に扱うことです。たとえば、ひとりだけ特別扱いしてご飯に連れて行く、なんてことはしない。もし行くなら全員一緒に連れて行くようにしていました。公平さを保つことで、少しずつ信頼関係を築いていけたと思っています。」
―――公平であることを意識されたんですね。経営者として、すごく大事な姿勢だと思います。
「そうですね。やっぱりスタッフみんなが気持ちよく働ける環境をつくるのが、一番の課題でしたし、一番の優先事項でもありました。」
業務のマニュアル化と大胆な人材育成の実践
―――経営者として、従業員を上手くまとめるためにどのような工夫をされていましたか?
「そうですね、一番意識していたのは、業務のマニュアル化ですね。仕事がスムーズに進むように、最初に業務内容を細かくマニュアル化しました。ただ、それだけでは現場に合わなくなることもあるので、スタッフたちにルールを相談させて更新してもらう仕組みにしたんです。」
―――スタッフの意見を反映する形にしたんですね。それはいい工夫ですね!
「そうなんです。そうすることで、私が関与しなくてもスタッフたちが自分たちで業務を回せるようになりました。結果的に、責任感や主体性も育っていったと思います。」
―――自分たちで運営していく意識が高まる仕組みですね。他にも印象的なエピソードはありますか?
「はい、ある時、1人のスタッフが『生意気』だという理由で先輩からいびられることがあったんです。そこで、その子を店長に任命したんですよ。」
―――いきなり店長にですか!?それは大胆ですね。
「そうなんです(笑)。その子に、マニュアルを全部作らせて、他のスタッフ全員がそれに従う形にしました。これで、人の上に立つことの大変さや責任を学んでほしいと思ったんです。」
―――その経験で、その方も成長されたんでしょうね。
「本当にそうです。その子は、人をまとめることの難しさや、自分が他人にどう見られるかを理解したと思います。そして、最終的にはその経験を活かして、今では自分のサロンを持つオーナーになっています。」
―――素晴らしいですね!ただ問題を解決するだけではなく、未来につながるような対応をされていたんですね。
「ありがとうございます。従業員の成長が、結果的にはお店の成長にもつながると信じていたので、そういった方法を取るようにしていました。」
アロマで広がる癒しの輪とスクールが描く未来
―――スクールを通しての目標を教えてください。
「はい、まずは各県でアロマを通じて活躍してくれる人を増やすことが目標です。そして、その方たちがさらに他の人たちを指導し、アロマの良さや効果を体験を通じて伝えられるようになってほしいと思っています。」
―――アロマの効果を多くの人に伝えたいということですね。それは素敵な目標です!
「ありがとうございます。アロマは特にメンタル面にすごく作用してくれるんですよ。今の時代、心の病を抱えている方も多いので、アロマを通じて精神的に安定するお手伝いができればと思っています。そうした活動をしてくれる人を育てることが私の一つのゴールですね。」
―――アロマがメンタルにも効果があるというのは心強いですね。具体的にはどんな作用があるんですか?
「アロマは香りを通じて脳にダイレクトに働きかけるのが特徴です。それによって自然を身近に感じられるようになり、自然とリンクすることで精神的に安定する方が増えていくんです。私の生徒さんやお客様には介護士の方も多いんですが、現場ではアロマが本当に必要だと言われています。」
―――介護の現場でもアロマの力が必要とされているんですね。とても意義深い活動ですね!
「そうなんです。実際、アロマが必要とされる場所はもっとたくさんあると思うので、今後さらに広めていきたいですね。」
―――糸島でお店をされていた頃も、自然とリンクすることを意識されていたんですか?
「はい、糸島の石鹸工房に来てくださるお客様は、自然や非日常への癒しを求めて来店される方が多かったんです。自然に触れないからメンタルが不安定になる方が多いのではないかと感じていました。やはり、日常で自然と触れる機会は大切なんだとすごく実感しましたね。」
―――その経験が今のスクール運営にも繋がっているんですね。
「そうですね。糸島でお店をしていた頃と同じように、自然を感じられるようなお手伝いをこれからもしていきたいと思っています。スクールを通じて、アロマを広め、より多くの人が心穏やかに過ごせるきっかけを作りたいですね。」
好きなことを仕事に。独立の第一歩を全力サポートしたい
―――スクールを通じて、生徒さんにどのような価値や想いを届けたいと考えていますか?
「そうですね、一番大切にしているのは、やりながら学ぶことが一番身につくという考え方です。『いつかやれるようになってから…』と思っていると、結局いつまでも始められないことが多いんですよね。」
―――確かに、最初の一歩を踏み出すのって勇気がいりますもんね。
「そうなんです。でも、まずはその一歩を踏み出して、実際にやってみることで自信やスキルが自然と身についていくものだと思います。だから、スクールではやりたいことを最短で実現できるルートを提供したいと考えています。」
―――それを実現するために、具体的にはどのような工夫をされていますか?
「例えば、2月から開催予定の『アロマパワー香水師養成講座』では、未経験からでも人気のアロマ講師になれるように、すぐに活動を始められるノウハウを詰め込んでいます。最短1ヶ月でアロマ講師として自立できる内容にしていますよ。」
―――未経験から1ヶ月で自立できるのは、生徒さんにとって心強いですね!
「ありがとうございます。実際に、自分の好きなことを仕事にして独立したいという方が多いんです。そんな方々の新たなスタートを全力で応援したいという想いを込めて講座を作っています。」
―――その想いがしっかり伝わります!受講生に寄り添ったスクール運営ですね。
「そう言っていただけると嬉しいです。最終的には、フリーランスとして自立した働き方をサポートして、生徒さんが充実した毎日を送れるような環境をつくることが私の目標です。それが私の信念でもありますね。」
―――素敵ですね!
今回は対面でのインタビューでしたが、前田さんは、前向きな姿勢でどんなピンチもチャンスに変えていく、とても魅力的な方でした。インタビューの中で、明るい言葉が多く、ご自身が重い病気を患った時も、常に前を向いて目の前のことに全力で取り組みながら、最終的に会社を立ち上げるまでに至った経緯をお話しくださいました。
ご本人は「タイミングが良かっただけ」と謙虚におっしゃっていましたが、やはり会社をここまで大きく成長させたのは、前田さんの強い精神力と行動力だと感じました。そして、その精神力を支えているものは、すぐに「アロマの力」だと気づきました。前田さんご自身も実感されている通り、香りの力は驚くほど大きく、それがメンタルに与える影響も計り知れないものです。前田さんは、そのアロマを全国に広め、より多くの人のメンタルサポートに役立てたいという素敵な想いを持っておられます。
さらに、「好きなことを仕事に」という思いを実現するための仕組みづくりにも力を注いでおられました。その取り組みは、多くの人々に新たな働き方を提供し、自分らしい人生をサポートするものです。私自身のフリーランスとしての活動についても非常に応援してくださり、「とてもいい働き方だよ」と何度も温かい言葉をかけていただき、励まされました。前田さんの生き方や考え方からは、香りが持つ可能性と、それを通じて人々に癒しを届けたいという強い意志を感じ、心を動かされました。
すずかん
福岡県福岡市出身。フリーライター兼シナリオライターとして活動中。趣味はカフェ巡りやハンドメイド、動画編集。地元・福岡をこよなく愛し、福岡で働く魅力や多様な働き方を発信していきたいと考えています!